小説 | ナノ
冬と春の、どちらかというと少しだけ春寄りの日和だった。ちょっと肌寒さを感じる室内は暖房を入れるほどでもなく、かといって、そのままの格好でいたら確実に風邪をひいてしまうであろう温度を保っていた。前に夕飯の際見ていた動物番組でニホンザルの群れが寒さに身を寄せている、という絵面を見たけど、あれって今の私たちみたいだな…とこっそり思った。もっとも、今身を寄せているのは彼と私の二人だけだから、私が前に見たニホンザルの群れの身寄せよりもずっと絵面は貧相な感じになるのだけれども。

一枚の、薄くて大きめなタオルケットを二人でぐるりと巻いて私たちはそれぞれ違うことをしていた。私は体育座りで録画しておいた金曜ロードショーの映画を見ている。一松はそんな私の背中に体重をかけて、私が図書館から借りてきた猫の写真集を熱心に見ていた。

極端に圧縮されたエンドロールを眺めてググッと伸びると背中合わせで掛けられていた体重が少し移動する。「ちょっとごめんね、立ちますよ」と彼に声を掛けて、二人を包むタオルケットの膜を破ろうとすると、彼の片手が私の服の裾を捕まえた。

「何?」
「駄目。どっか行くの駄目」
「どうして」
「今のお前湯たんぽだから」
「…リアル湯たんぽ、うちにあるけどそれ作ろうか?」

写真集のスコティッシュフォールドのページは開いたままになっている。振り返った先の彼は小さく首を横に振って「ふ、普通の湯たんぽだと冷めちゃうだろ」と何ともまぁそれらしい理由を取ってつけた。今日は甘えたい日なのだろうか。とても可愛い人だ。

「まだまだ人肌恋しい季節だもんね」
「違うし。撫でるなよ」
「さー、じゃあもう一本金曜ロー消化しよっかな。私の背中を暖めてね、一松君」

なんにも言わないでグイグイ背中に体重かけてくる彼の何と可愛らしいことか。恋をすると盲目になる…だなんて、恋に転がり落ちる前の私はそんなの迷信だと思っていた。迷信じゃなかった。好きってすごい。どんな行動だって甘い目で見てしまう。私は本格的に駄目かもしれない。背中の温さが愛しい昼下がりの話である。

(20160321)
奈々詩さんリクエスト/背中合わせ
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