ホワイトデー前日は大忙し。
愛しいあの子の為に、色々考えたホワイトデー。
有名菓子店のホワイトデー限定菓子をあげた方がいいのかな、それともいつも通りに僕の手作りにしようかな…。
甘い物好きで欲張りな芹霞のこと。
だったらとことん甘いもの、堪能して貰おうか。
喜ぶ顔を想像して、僕は朝から買出しだ。
「あら、玲ちゃんじゃないか」
大方材料を買い出して、後は大量の砂糖だけとなった時、いつものスーパーの前で、顔なじみのおばさんに声をかけられた。
「玲ちゃん、今日は大根50円の特売日だったんだよ? おばさん、待っていたのに…」
「ええええ!!? 今日でしたか!!? ああそうだ、今日は月に1回の火曜お得市…」
大根…。
チェックを欠かさずにいた僕としては、あまりにショックで項垂れてしまった。
「玲ちゃんはしっかりしているようで抜けている子だね…」
おばさんは愉快そうに笑いながら、
「はい。玲ちゃんの分」
そう、大根を2本差し出した。
「実はね、皆で玲ちゃん待っていたんだけれど玲ちゃん来ないから、2回並んで玲ちゃんの分も買っておいてあげたんだよ。よかった、玲ちゃんと行き違いにならなくて。その分だと、スーパー寄らずに帰ろうとしていたんだろう?」
僕は頷いて、煌びやかな大根を手に取り、何度もお礼を言った。
よかった…大根。
「あはははは。玲ちゃんは本当に大根が好きなんだねえ」
おばさんはがはがは大口で笑う。
「いや、違うか。大根おろしを作ってくれた子が大好きなのか」
僕は…照れてしまった。
「ああ、そうか…その材料、明日はホワイトデーだものね。玲ちゃん頑張るんだね?」
僕は返事していないのに、おばさんはうんうんと1人頷いて。
「もうお買い物は終わったのかい?」
そう言うから。
「あとは、砂糖を買いに行くだけで。お一人様1個限りだから、何度でも並ぼうかと。ん…最低20回程」
回数限定があるのなら、1度買ってからまた並べ。
競争率が激しい世間で生き抜く術は、実はこのおばさんから習った。
「一体どれだけの量を作るんだ、玲ちゃんは」
おばさんはそう笑いながら、自分の携帯を取り出して。
「可愛くて健気な玲ちゃんの為に、おばさん仲間を呼んであげるから」
おばさんネットワーク発動。
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