「これはここ、こっちの資料は……ここでいいかな」
薄桜学園の紅一点、雪村千鶴は働き者である。
これは誰に聞いても揺るがない事実だ。
本人は気にしたことがないだろうが、朝から教室の掃除や花壇の水やり、学食のおじさんこと井上源三郎(愛称は源さん)の手伝いまでやっているのだからこれを働き者と呼ばずに何と呼ぼうか。
そんな彼女が近頃、一番力を入れていること。
それは、国語科準備室の掃除だ。
社会や理科と比べ、器具や資料を使うことがあまりないために散らかっているわけではないが、それでも授業で配布したプリントなどが残っていたりするもので。
それらを整理することに一生懸命になっていた。
「なんだ、千鶴じゃねえか。お前なにやってんだ、こんなところで」
準備室に入ってきたのは、土方歳三。
この部屋を占拠している張本人である。
「あ、土方先生お疲れ様です。いえ…あの、ちょっと片付けを」
「おいおい、国語係はそんなことまでやんのか?どうせ準備室だ、多少汚くても構いやしねえよ」
土方は苦笑しながら千鶴の頭をぽんと軽く叩く。
「……私がやりたいんです。あっ、でももし先生がご迷惑だというならやりません!」
「や、別に迷惑ってことはないが。お前に色々させちまって悪いなと思って」
「そんなことはないです。私、先生のお役に立ちたいんです」
千鶴がそう言うと土方が軽く目をみはる。
だが、薄桜学園一デキる男はすぐに元の顔に戻って、千鶴に言う。
「それじゃ千鶴、今日はもうそのへんにしとけ。それで、茶に付き合え」
「へっ!?」
「近藤さんが、食えっていって菓子をくれたんだが……正直、一人じゃな。だから千鶴、お前が茶に付き合ってくれ」
インスタントコーヒーしか無いが、そう言って土方は困ったように笑う。
千鶴はちょっと考えた後に小さくうなずいた。
「あ、先生!私がやります!」
「あーもう、だから気にすんなって言ってんだろうが。お前はおとなしくどっかそのへんに座ってろ」
土方がインスタントコーヒーを淹れるその姿は普段の鬼教師とは打って変わって、とても穏やかだ。
「千鶴、砂糖とミルク入れるか?」
「あ、はい。お願いします!」
そして千鶴に渡されるカップ。
それに口をつけながら千鶴はそっと土方を見やる。
(……先生、ブラックなんだ…)
予想通りといえば予想通りだ。しかし、土方にはそれすら似合いすぎていて胸が苦しくなる。
一分の隙もないほどに彼は「大人の男」で、今は吸っていないが煙草の匂いやちょっとした仕草に自分との距離を感じてしまうのだった。
千鶴の手の中で、ミルク入りの甘いコーヒーが揺れる。
土方と二人きりで、嬉しいはずなのに。
コーヒーと同じで甘くて、けれどどこかほろ苦かった。
大人な貴方と子供な私110111
土方さんのはずなのに途中で口調が左之さんっぽくなったっていう。
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