射干玉の夜に星が落ちる 


※現代設定
※会社員と大学生






毎年冬になると見られるという、流星群。
それを見るために夜のデートに彼を誘った午後八時。

「まったく……いきなりにも程があるぞ。突然電話をしてきたかと思ったら流星群を見に行きたいなど…」

そう言ってため息をつくのは私の彼、斎藤一さん。

「だって、夕方のニュースで今日がピークだって言ってたんだもん。それに、最近会ってなかったし」

そう口を尖らせて言えば、それはさすがに悪いと思っていたのか彼が黙り込む。
ずっと残業続きで、今日は久しぶりに早く帰れるという入社三年目の彼を無理やり連れ出して車で向かったのは小高い丘の上。
ここは私たちの初デートの場所でもあり、記念日には必ず訪れる場所でもある。

「……ねえ一さん、そんなに考えこまないでよ。ちょっと意地悪言ってみただけ」

「いや、しかし……会えていなかったのは事実だ」

心底すまなさそうに呟く彼に、私のほうが申し訳なくなってしまう。
大学生と社会人が全然違うことはわかっているし、彼がプロジェクトを任されるようになってそれに一生懸命なのも知っている。
だからこれは私のわがままなのだけれど、彼は呆れてしまうほどに真面目な青年なのである。

「そりゃまあ…前よりは会えないけど。一さん、時間が少しでもあればこうして無理してでも会ってくれるし、電話もメールも欠かさないし……私はけっこう満たされてます、よ?」

ここまで言ってもまだ納得いかなそうな一さん。
……それにしても、今日はいつも以上に無口だ。
かと言って顔は怒っているわけでもないし、どちらかと言えば何か言うべきかを迷っている時のそれに近い。
一体なんだろうと考えていたら、夜空が一瞬きらめいて線を引くように筋が出来る。

「あ、一さん流れ星!」

じっと目をこらせば、漆黒と呼ぶにふさわしい冬の夜空に幾つも星が流れていく。

これだけたくさん流れていれば、願いをきいてくれる星が一つくらいあってもいいんじゃないだろうか。
そう思って私は心の中で願い事をする。

「ずいぶん真剣だな……志麻は何を願ったんだ?」

真剣に願い事をしている私に向かって一さんが一言。

「私、欲張りだからひとつに絞れなかったの。だからふたつお願いしてみました」

私の願い事を言ってみたら、彼はどんな顔をするだろう?

「まず、一さんと一緒にいられますように」

「……もう一つは?」

「いつか、一さんのお嫁さんになれますように!」

それが、私の願い。
ちょっと重たいなって自分でも思うけど、こういう時じゃなきゃ言えそうにないから言っておく。

「……それなら、星に願う必要はない」

一さんが小さく笑う。
それから、私を抱き寄せて額に口づける。
これは一さんのお決まりの合図で、目を閉じればまぶたや唇に優しいキスが降ってくる。

「いつ言おうか、ずっと迷っていたら志麻に先を越された」

「え?」

目を開けると一さんの優しい眼差しがそこにあって、一さんが困ったように笑った。

「志麻はまだ学生だし、今すぐというのは無理だが」

そして彼は私の左手をとる。
薬指には誕生日に一さんからもらった指輪があって、彼はそれにもキスを一つ落とした。

「そうだな…志麻が大学を卒業したら。俺と、結婚してくれないか」

静かに告げる彼の言葉はあまりに突然すぎて理解するのに時間がかかってしまった。

「……それで、今日ずっと黙ってたの?言うか言わないか、悩んでたの?」

「…ああ」

ああもう、本当にこの人は。
思わず笑みがこぼれてしまう。

「私の願い事、一さんが叶えてくれる?」

「勿論だ。……志麻、返事は?」

「はい。よろしくお願いします」

答えを言い終わるのとほぼ同時に、また優しいキスが降ってきた。



射干玉の夜に星が落ちる


110110



思った以上に一くんが喋りませんでした。
ていうかお気づきかも知れませんがこれ12月の話です。ふたご座流星群…


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