たらりと正臣の口の中に鉄の味が広がる。自身の唇を噛み締め切ったからだ。じわじわと小さな赤い自傷行為の傷痕は眼前の男への反抗心から出来たものだった。 「俺はあんたが死ぬほど大嫌いです臨也さん」 唇の次に爪までもが握り拳の中で掌に傷つけようとする。 「正臣くんを大嫌いになったこと、俺は、ないけど」 そうでもしないとこの男に気付けば飲み込まれそうだったから。蛇に睨まれた蛙。きっと端から見ればそんな光景だった。蛙は鳴くことも跳ねることもせずジッとしていた。 「…まるで俺が昔臨也さんを好きだったみたいな口振りですね。誤解も甚だしい、昔から俺はあんたが嫌いで信用なんかしていない」 「そんなこと言わないでよ。自分が知らない心を相手が知っていることもあるよ?」 ゆらりと幻影のように彼は近付く。気安く手を伸ばし正臣の横髪を撫で隠れた耳に掛ける。それはまるで今から発する言葉を聞き漏らさぬようにという所作のようで。 「俺は変わらず君を愛しているよ。だからいつでも俺のところに戻ってくるといい。正臣くんの居場所は必ず存在するから」 残酷なまでの偽善を被った優しさは鳴かない蛙を飲み込んだ。 (臨正)
臨正へのお題は「そんなこと言わないでよ」「その優しさは残酷じゃない?」という台詞の両方、もしくはどちらか一つを使った話です http://shindanmaker.com/320097
2014/08/04 02:07
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