あれから数分、あっという間に男に捕まってしまった私は自分の日頃の運動量と持久力の少ないことを悔いた。

「キミは初対面の人の股を躊躇なく蹴れる人間なんだね」

口を開いた男はまだ股間を痛そうに押さえながら、こめかみに青筋を立て言った。

うるさい奴だと睨みつけ、また股間を蹴るような動作をすると男は上擦った声で悲鳴を上げた。

面白い。

『私が人の股間を蹴れるなんてことはどうでもいいことなのですが、とりあえず此処は何処ですか?』

「木の葉の里だけど」

話しを逸らし、本当に聞きたいことを率直に男に投げると、案の定、男は此処は私の知らない土地だと素直に答えてくれた。

私はどうしたら良いのだろう。
警察に行くべきか、あまり大事にはしたくないと頭を横に振る。

走っていた時に辺りを見たが、ビル一つなく、車もあまり通ってはいなかった。

此処は空気も清んでいるし、私がいた地元の空気はもっと排気ガスの臭いが鼻につくような感じだったはずなのだが、気のせいなのか。

『わけわかんない』

小さな声で男に聞こえないように呟き、悩むこと三秒、男を見つめる。

相変わらず股間から手を離そうとしない男は私の顔を見るなり、また怯えた顔をした。

「何か?」

『私、道に迷いました』

素直に言う。
我ながらいい案だと思ったのだが、男は目を点にしたままだった。


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