馬鹿共の攻防戦


※シンタロー総受け気味,エネちゃん性格悪そう




まさか、メカクシ団がここまで男色チックだとは夢にも思わなんだ。



私から言わせれば、奴は引きこもりでニートで性根が腐り果てて地に倒れ伏していて根性も無く甲斐性も無く気が弱く調子に乗ればすぐに空回る阿保で人間としての器が雀の涙ほども無くどうしようもない十八歳なのではあるがそれでも、奴は何故だかメカクシ団の男性陣に好かれているようなのだ。
好かれている、とは言うものの、この「好き」は朗らかで友愛的かつ平和な物では無く。
ラブである。
はあとマークがつく方の「好き」である。
もっと掘り下げて言えば、ベッドの上でニャンニャンしたい――ううん、これではジェネレーションギャップが生じる。合併交渉に及びたいと言うべきか。ディープで、より現実的な「好き」。体を求めると言えば正しい。
まあ、お分かりだろう。そう言う事である。

――もうオブラートに包んで説明するのにも疲れたので、もっとストレートに話す事にする。
まず、ご主人のケツを狙っている輩を渋々嫌々ながらも紹介しよう。心して聞いてほしい。

「あーッ! シンタロー君じゃん。何、今日は早いねえ。どしたの、もしかして僕と一夜の過ちを犯しに来たのー?」
「おうカノ、何だそのジョーク。どこで覚えたんだ」
「やだなー、僕の一世一代の愛の告白をジョークで片づけないでよ」
そう乾いた笑いを零しながらも、その瞳は据え膳来たらばすぐさま喰らわんとする健全な肉食獣のそれになっている事に、まだご主人は気付いていない。その右手が自然にご主人の腰に回されている事もだ。
ご紹介しよう、第一号。鹿野修也。
冗談が過ぎすぎて、どんな愛の告白さえ冗談と笑い飛ばされるようになってしまった可哀想な吊り目さんである。
しかし別段憐れみを覚えた事は無い。
彼の狼少年は嘘を吐き過ぎて事実を話しても嘘と受け止められるようになったと言う。
つまりは報いである。敬意を込めてm9(^Д^)プギャーを送ろう。

「カノー、駄目っすよ、シンタローさんを困らせちゃー」
「何セト、僕のお父さんにでもなったつもりー?」
「そう言う訳じゃないっすけど、ねえ」
ばち、と言う音がスピーカーを通して聞こえてきたような気さえする。それほどまでにあからさまな、分かりやすい小競り合い。しかしご主人は何だと思っているのか、軽い笑みすら浮かべている。いつもの事だとでも思っているのだろう、この二人の掛け合いを。そんなに甘い物でも無いと言うのに。
瀬戸幸助、と言うこの精悍な顔つきのつなぎさんは、ご主人に一目惚れした内の一人だ。ちなみに吊り目さんもその一人である。
厄介な事に、この人は純情な初恋が斜め上に飛翔し、取り返しの突かないどろどろとしたものに発展してしまった重症患者だ。ともすれば、吊り目さんより粘着質な可能性すら伺える。
まあ、どちらにしてもご主人を狙っている事に変わり無いが。

「……何してんの、シンタロー」
「おおヒビヤ、止めてやってくれよ。そろそろ殴り合いになりそうだ」
「…………誰のせいだと」
「ん? 何か言ったか」
「気のせいじゃない」
明白な嫉妬心をちらつかせられていると言うのに、この十八歳は気付く素振りすら無いのだ。どうしろと言うのか。
その鈍さに業を煮やして煮やし尽くした結果、雨宮響也、もとい純粋ショタボーイは、超えてはいけないボーダーラインを大股で跨ぐ事となった。もう救いようが無い。
おまけにその年端も行かぬ幼さが起因して、彼はご主人に完全な「弟」的ポジションに固定される羽目になってしまった。これにはクールでドライな雨宮少年もマジでかかるしか無い。それにより、彼はメカクシ団内でも人一倍アグレッシブなアプローチをかける事を要求されているのだ。悩み多きこの年頃に、まさかそんなディープな話題で苦しめられるとは、本人すら予想外だっただろう。

「それからコノハ」
「……ん」
「もうちょっとゆる―くしてくれ。少し苦しい」
「……分かった」
自覚が無いという点では、恐らくこいつが一番厄介かも知れない。
ご主人の腰に腕を回し、あまつさえ肩に頭を埋め、安らかに寝息を立てていると言う一部の人々からすれば物凄く羨ましい状況。しかし一番は、それをご主人が許容していると言う点である。
コノハだから仕方無い――ご主人は恐らくそれくらいにしか考えていない。それが幸か不幸かは知らないが、無邪気な寝息を立てる彼にとっては、愛しい人を抱きしめられて幸せには違いないだろう。その他の人々にとっては妬みと羨望の良い的に違いないだろう。
なんせ腕の力を緩めてくれとまで言われる始末。重要なのは、拒絶されていないと言う事だ。まあそれでいいやぐらいの受け入れ度合いなのだ。なぜその器の広さを日常生活に回せないのだろうか。理解に苦しむ。
さて。

「……ねえシンタロー君。何その手」
「何って、お前が近づいて来るのを阻んでいるだけだ」
「何で!? コノハ君は許してるのに!」
「コノハは良いんだよ。癒されるから」
「見苦しいっすよ、カノ。あ、シンタローさん、明日暇っすか?」
「暇だけど。何か用か?」
「いえ、炊飯器を買い換えたいんで。シンタローさん、前選ぶの手伝ってくれた時すっごく詳しかったじゃないっすか。また力を貸してほしいっす」
「あー……いいぞ。じゃあ、他にも誰か連れてったらどうだ。重いだろ、ああ言うもんって」
「いや、俺そう言うの持つの得意なんで。二人で行きましょう」
「……下心見え見え。分かりやす」
「ん、どうしたヒビヤ。顔が怖いぞ」
「別に。それよりシンタロー、勉強教えてくれるって約束は」
「ああ、そうだったな。なんなら今からやるか? 丁度暇だし」
「賛成。じゃあ僕の部屋で」
「僕もねー」
「何でカノまで来るの。意味分かんない」
「えー、だってシンタロー君が勉強教えてくれる機会なんてそうそう無いじゃん? それに二人っきりって言うのが気に食わないしー」
「はあ? 僕はシンタローに勉強教えてもらうって前々から約束してたの。アンタは関係無いだろ」
「なあに粋がってんの小学生君。短気は損気だよ」
「おいおい。喧嘩はやめろ喧嘩は」
「……」
「痛い痛いコノハ。強い。力強い」



いくつもの攻防戦が続く中で、あえて私は何も言わない事にした。
今更言っても仕方がない。それに私が言った所で、ご主人は恐らく信じない。「何言ってんだよエネ。んな訳無いだろ」で笑い飛ばされるのがオチだ。
むしろ自身の貞操の危機を自覚すべきなのである。
ぎらつく男の視線を肌で感じ取る他に、ご主人が自分の立ち位置を知る術は無い。
そして無邪気にもその視線に気付かなかった自分を顧みると良い。そうでもしないと彼は分からないだろうから。
頭上で繰り広げられる不毛な争奪戦に、私は静かに耳を傾ける。
ご主人が据え膳食われるのはいつだろうか? 待ち遠しくてたまらない。



(2014.4.2)
初のシンタロー総受け。ずうっと書きたかったんや。
しかしエネちゃんが性格悪そうに見える。きっと彼女なりの愛なんだよ。うん。

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