ノッテタタカウ!


四十八戦四十八連勝無敗無引分け。
引き分け、なんて元々無いのだがそこは置いておくとして。
ブラボーの一言に尽きた。ノボリは心から感動と感銘の言葉を捧げようと思った。
最近では余り見られなくなった――シングルトレイン四十八連勝。
燃え上がるような興奮。自身の奥から湧き上がる期待と熱に、ノボリは少なからず震えた。
彼は戦いを愛する者であると同時に――何よりも、負ける事を待っていた。
敗北の苦渋が好きな訳では無い。辛酸を舐めるのに快感を覚える様な性癖を持っている訳でも無い。
敗北すると言う事は、自分に至らなかった点が在ったと言う事。不具合、不都合、不備。言えば弱い点。弱点。
今迄自分が把握していなかった――脆い部分を、見つけると言う事。
その点を克服し、修復し、強固で頑丈な物に仕上げる事が出来たなら――自分はもっと強くなる。
即ち、敗北とは彼にとって恐るるに足る物では無い。寧ろ歓迎し――迎え入れるものであると、ノボリは思っていた。自分の弱さと向き合う事は、決して嫌悪すべき事では無いのだ。自分の隠れた伸び代を見つけ出し、引き出す。それがどんなに面白い事か。
だからと言って、みすみす負けに行くのでは話にならない。ノボリは車掌帽をしっかりと被り直した。
全力でぶつかり、それで勝つ、負けるがあるのなら――それこそ快感! 勝利してこそ緒を締め、敗北は好機と思え。
ノボリは微かに笑って見せた。
向かい側の扉が開く。入ってきた挑戦者の姿に、ノボリは少し驚いた。
威風堂々とした歩み。圧だ。まだ幼さが残る様な少女なのに――気圧される様な圧がある。
青空が映り込んだ瞳からは、軽やかな熱と満ち溢れる自信とが混在しているのが伺える。冷え切った車内に焔を落としたかの如く、少女の周りは、陽炎が揺らいでいる様にノボリには思えた。
軽い会釈に挨拶を返し、少女はにこりと笑った。

「今日は。このトレインの大将さんですね」
「大将、ですか。それは些か語弊があるやも知れませんが」
「では、ボスさんでしょうか」
「そうでも無く――ここでは、サブウェイマスターと呼ばれて居ります」
「サブウェイマスター。格好良いですね。私もそんなの欲しいなあ」

隠れた闘争心と本能。虫も殺さない様な顔に騙されてはいけない。彼女は、間違い無く四十八連勝を成し遂げた、バトルサブウェイのチャレンジャーなのだから。
そして自分は――バトルサブウェイの、ボスなのだから。

「本日はバトルサブウェイ御乗車、有難う御座います。ここまでやって来るとは、貴女様は相当な手練れなので御座いましょう」
「お褒めに預かり光栄です。シンオウから来ました、チャレンジャーのヒカリです。ええと、サブウェイマスターさん」
「ノボリと申します。ヒカリ様はシンオウからはるばるやって来られたのですね。イッシュのポケモンを見るのは初めてでしょうか」
「ええ、初めてです。どこもかしこも見た事無いポケモンだらけ! すっごくワクワクします」
「それはそれは。私も、シンオウのポケモンを見る機会は余り御座いませんので、楽しみにして居ります.そして、貴女様の戦い方も」
「うふふ。私の子たちはすっごく強いですよ。ご覚悟どうぞ」

ノボリは、背筋に這い上がる物を感じた。寒気などでは無い。期待だ。
戦いの熱に心を躍らせ、躍動する戦況に頭を巡らせる。道を示すのは私達で、戦うのはボールの中の彼等。如何に心を通わせ、強調し、同調し、手を取るか。ノボリはバトルが好きだ。
そうであるが故に――期待する。少女が、新たなバトルを見せてくれる事を。そして自分が――それに打ち勝つ事を。

「……貴女様が、ポケモンの事を良く理解なさっているか、どんな相手にも、自分自身を貫けるか――戦いの焔に身を焦がすか、それすら飲み込み、自分の物とするか――勝利か敗北、どちらへ向かうのか? バトルサブウェイ、発車の時間で御座います。
では、出発進行―ッ!!」




(2013.2.16)
前からあっためてたネタ―!
ヒカリちゃんがサブウェイ行ってシンオウのポケモンで戦ったら面白そうだよねってそれだけ。


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