Welcome the end


※黒パーカーシンタロー


世の中は往々にして理不尽な事柄で溢れている、とシンタローは思った。彼女が死んでなお自分が生きている事も、まるでそれの代わりの様に、あいつが現れたことも。理不尽かつナンセンス。それ以上でもそれ以下でも無かったが、シンタローはそれが大嫌いだった。
今日もこの部屋は暗い。明りも無く、PCの電源すら、点けるのが鬱陶しかった。この部屋が暗くなればなるほど、比例するように窓からの夕焼けは一層明るく輝く。シンタローはそれが好きだった。その赤が好きだった。じっとりと、ねっとりと、染み込むような、水中をもがいているような感覚。その感覚に自信を委ねることが生きがいであるかのように、シンタローはただただ窓を開け放す。そこから見える赤を見るために。

「よう」

だからこの部屋に黒は要らない。それ以外の色は必要無い。余計な物は視界に映さない。全てを切り離し、この身だけをこの空間に置く。それだけでいい。
なのに。
あいつだけは容易くここに来る。切り離した世界の外側から、法則、常識なんて障子紙のように破り、この部屋に別の色を持ち出す。
ああ、今度は何故に黒なのか。前は青だった。鬱陶しい、青だった。しかしそれももういない。なのに、どうしてまた別の色が来る。反吐が出るんだ、そんなものは。
激情がくるくると頭の上で回遊して、沈黙。あいつは何も言わない。シンタローは握られた鋏を思いっきり投げつけた。

どくどくと流れ出す赤色は、少なくともシンタローが望んだものでは無かった。その色じゃない。その色は違う。そんなことばかりが良い訳のように口から流れ出して、見えたものは、彼女の姿。

「やっぱりさ」

赤色に染まった鋏ががちゃりと落ちる。体を伝って落ちる血だまりが地面に溜まってゆく。黄色に光る瞳がシンタローを捕えて、じわじわ、じわじわとその距離が縮む。もうシンタローは逃げる事もしなかった。全てを見通しているような眼は、何も見てはいなかった。近づいてくる黒を拒否するように手を伸ばす。

「俺があんたの一番にはなれないみたい」
「そうだな」
「あんたにとって俺は異質な存在なんだろう。多分それだけなんだろう」
「ああ」
「じゃあさ」

――赤も青も何もかも、塗り潰してしまおう。

理不尽にも程がある。鋏を振り下ろすあいつの笑顔を、シンタローはそう思いながら見つめていた。



(2013.10.27)
Welcome the end(終わりを歓迎しろ)

タイトルはDOGOD69様から頂きました。

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