虚言癖でもあるんですか


「いや、別にそういうんじゃないけど」

まあ嘘である。恐らく否定したのだろう生温い言葉は、あからさまな虚言として私の頭に反響した。だって分かりやすすぎるんですよ、ディスプレイ越しでも。彼の瞳が真っ赤に輝いている事なんてこっちからでも見える。青い光がばちばちと私の世界を覆い尽くしても、あの赤だけは容易に私の瞳まで届くのだろう。何とも忌々しい限りである。

「へえー」
「信じてないよねー、やっぱり」
「分かってるんですね」
「長いことこんなんだからね。それくらい分かるよ」

自嘲しているのか、はたまた。どちらともとれないかなその瞳は、やはり先ほどと同じ真っ赤な物である。何年か何十年か、私がいやいや付き合ってきたあの赤である。じくりじくりと私に染み込みながら、吐き出そうにも吐き出せない私のどろどろした部分が溶けだしている、あの赤である。なんとは無く腹が立ったので、ぽろりと飛び出した言葉をそのまま彼に投げつけた。

「自分で分かっている分、性質が悪いのでは」
「ええ、そういう事言っちゃう」
「言っちゃいます」
「酷いなあ」

はは、と頭をかいてカノさんはソファーに沈み込んだ。ディスプレイの視界から途切れた彼を少しだけ見やりながら、私も沈み込むように青い海を掻き分ける。
疲れたなあ、疲れた。あの人と話すのは本当に疲れる。たとえあの人が嘘を吐くのをやめても、更正して真っ当な人間として世に出たとしても、あの人は私の精神をがりがりと磨り減らせていくのだろう。考えたら頭の天辺からつま先まで(無いけども)をぞわりとした何かが駆け抜けた。

癖は治りにくい。彼にとっても私にとっても、この癖だけはどうにも直らない、難病のようだ。こつこつぺたぺたと塗り固めてきた虚像と虚言の世界は、たとえ嘘に見えても、私たちが踏みしめている道なわけで。本当の自分も、世界も、気持ちも見失ったとして、私たちはこれを抱えながら生きていく事になるんだろう。
赤く染め上げた足元は足幅も無い。引き返そうにも、やわな道は根元から崩れ落ちている。だってベニヤとペンキだけで作ったから。

いつか自分の足元を自分で蹴り崩したとしても、私たちは愚かにも前に進み続けるのだろうね。あーあ。




(2013.10.19)
カノエネは分かっていても進み続ける感じ。どうしてギャグにならないかな。
タイトルはDOGOD69様から頂きました。

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