夢うつつ


気づいた時には、そこにいた。
白い世界。周りには誰もいない。ふと手を見ると、青いジャージで覆われていた。顔に触れれば、硬い物が頬を包んでいる。真っ青な髪の毛に、耳にくっ付いたヘッドフォン。真っ白で何の装飾もないそれはどう見ても私の趣味ではなかった。外そうと手をかけても、ピッタリとくっついていて離れない。
もう一度顔を上げる。白い世界が、何事も無くそこにあった。

睡眠不足が引き起こしたリアルな夢。夢だと分かるから明晰夢か。ただそれだけ。それだけの軽さ。そう思って辺りを見回せば、白い平坦の無い世界が酷くナンセンスに思えた。
ゲームばかりしていると、ゲームと現実の区別が分からなくなる―ゲーム中の私の背中にそれだけ言って、祖母は部屋を出て行った。夢の中でも現実から逃げるなんて、私も相当だねと苦笑いして。
すいっと重心を傾ければ、自然と前へ進んだ。足は太ももの途中から消えていた。どこまでも、どこまでも、足のない体で進む。夢なのだから、何をしたっていいだろう。
風も、暑さ寒さも消えている。私が感じないだけなのか、元々無いだけなのか、それは分からないが。
しばらく進んだところで、遠くにぼやけた黒が見える。人影。夢の中で人に会うなんて、この夢は随分と出来上がっているらしい。
近づけばそれだけその影は輪郭を露わにする。短く束ねられた黒い髪、黒い服に黄色いライン、ヘッドホンまで黄色。黄色と黒の絵の具さえ使えば描けてしまえる様な影。
ふと、影が動く。振り向いた瞳が黄色くラインを作る。裂けた口元。それが私を視界に捉えただろうその時、世界が塗り潰された。
影の袖口から溢れ出す影、影、影。白い世界にバケツで絵の具をぶちまけたように、前後左右が黒く覆われていく。それは網目のように広がって私に絡みついた。声を上げようにも口の中までそれが入り込んで、嗚咽すら出せない。やがてその影の先が赤く見開かれ、私と目を合わせた。赤い目が私の視界を埋め尽くして、体が動かなくなる。瞬きすら出来ないまま、体が石の様に固まった。
そこで気付く。私を見つめている影の様なこれは、蛇だ。赤い目の、蛇。

「捕まえた」

合成音の様な声。きんきんと耳に入ってくる声。
人影が動いた。黒い足をすいすいと動かして、私の目の前に立つ。今にも笑い出しそうなほどに、その口は裂けていた。誰、と聞こうにも口が動かない。手も、足も、目すらも。

「どこにいるのかと思ったら。案外近くにいたんだね。よかった、見つかって」

知らない、知らない。誰なの、私は貴方なんて知らない。そんなぎらぎらした目で私を見つめる貴方なんて、知らない。そうだ、知っている。私は貴方を知っている。貴方は。

「は……る、か」

見つめる瞳がすっと細くなる。知っているのに、知っているはずなのに、怖い。どうしようもなく怖かった。その目が。私を見るその目が。お前の事なんて知らないって、突き付けられている様で。現実を、真実を。
躊躇い無く影は私に手を伸ばす。首元にその温度を感じた時、視界が途切れた。

体に痛みが走った。無理矢理瞼を開かされるとき、こんな感じなんだろうと思う。肩で息をしながら、体を起こした。
まだあの顔が頭に焼き付いて離れない。私があのまま目覚めなかったら、と思うと頭が痛くなった。
もうやめよう。あれはただの夢だったのだ。そう言い聞かせて、今日が学校だったと思い出す。早く行かなくては、祖母にどやされる。まず髪をくくろうと伸ばした手は空を掻く。結んだまま寝てしまったのか。まあ、深夜までゲームをやっている私にはよくあることだ。
さあ、学校に行こう。

(くくろうとした髪の毛が青く染まっていたことに彼女は気づいていない)



(2013.9.23)
エネちゃんが覚醒するまでの夢の話と思って書いてたら目覚める前にアザミさんと話してたことわすれてた( 'ω' )
貴音ちゃんが現実に気づくまであと少し。



[ 6/13 ]
戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -