エネちゃんSS


冷たさと無機質な空気で満たされたここは、居心地が良いようで、良くない。外とここの境界線は、一センチもない薄いディスプレイ一枚。でも、どれだけ力を込めてディスプレイに手を叩きつけても、喉が枯れ果てるまで叫んだって、この境界線は、溝は埋める事が出来ないのだ。
(ばかみたい)
頭の中の仄暗い感情を押し殺すように無理矢理笑って見せた。ディスプレイに映った私の表情はやっぱりぎこちなくて。
でも、あの頃より笑えている。睡眠欲と苛立ちに苛まれたあの頃より、私は綺麗に笑えている。
(ほんとうに?)
本当に私はあの頃より笑えているのだろうか。阿保で馬鹿でうっとうしいくらいに温かかった遥と、なんだかんだで世話焼きの先生と、憎たらしい顔の後輩と、横で笑っていたアヤノちゃんと、夕焼けの色が残る教室で、笑い合っていたあの頃より。
何もかもを騙して、青い羅針盤が導く先で、人間の愚かさを嫌になるくらい目にして、正体を隠してメカクシ団の皆と何事も無かったかの様にへらへら笑っている私は。
鼻の奥がつぅんとなって、鈍りの様に重くなった体に逆らうことなく底へと落ちる。
(気持ち悪い、)
大好きな人にも忘れられてしまった汚れた私を、誰が助けてくれるんだろう。



ご主人は変わった。
部屋に籠ることが少なくなって、代わりに107番のドアを叩きに行くことが多くなった。デパートの事件が起きるまでは家から出ることすら無かったのに。
なんだかんだで楽しそうに、面白そうに、笑顔を見せることが増えた。自分の周りに人との繋がりを結ぶことが増えた。ご主人は変わった。
じゃあ、私は?
私は何か変わっただろうか。自分を変えられただろうか。
ディスプレイの奥、偽物の光で満たされたここで、あの日伝えられなかった言葉を、まだ引きずっている。プログラムとして残された記憶に縋り付くように泣いている、私。

「はるか」

大好きだよ、すら口に出せない私は、やっぱり作り物の命を持った、大馬鹿者なのだ。




(2013.7.5)
エネちゃんはなにかとシリアスが多くてかわいいですね。

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