ある
魔界の王の
〈書記〉

かつて、今の人間界と呼ばれる場所には、魔界、天界、人間界の全てが一つの大陸に在った。

それぞれ土地をしきって暮らしていた。

魔族と天使は魔術に長け、人間はその二つの種族に習い、劣るながらも魔術を習得した。

それは、共存して平和だった時代の断片。

しかし、月日は流れ、魔族と天使の寿命は長く、人間の一生は短く。

月日が流れる度に、それぞれの種族の価値観は変わる。

お互い長くを生きる魔族と天使は、いつしか争いを始めた。
どちらの種族が世界を纏め上げるべきかと言う、そんな些細な事柄から、戦争が始まった。

そして、生の短い人間は、魔族や天使からしてみれば下等だった。

力無い人間は、生き延びるために自ら魔族に従い、天使に従い、まるで奴隷だった。

そして争いの日々。 月日はまた流れ、一人の人間が、後に'人間の英雄'と呼ばれる男が生まれた。

その男は酷く真っ直ぐだった。酷く正義だった。

魔族にも天使にも属さず、自ら書物で魔術を学び、たった一人で生きていた。

そんな特異な存在を、力ある存在を、弱い人間達は見逃さなかった。

生命術士により、男の意思とは無関係に、男は魂を弄られ、不老不死の身にされた。朽ちることを許されない体を与えられた。

そして、ネクロマンサーは戦争の中で密かに手に入れた魔族と天使の亡骸を使い、一つの剣を造り上げた。

誕生した、二つのもの。

英雄の剣。
そして、人間の英雄。

天界と魔界の争いで、尊厳を奪われていた人間だったが、その剣と英雄の活躍により、人間は勝利した。

人間とは、浅ましい生き物である。利口な生き物である。

英雄の剣は実験に実験を重ねて造り上げられた。 空間を弄ることが出来る程に…

その剣により、一つだった大陸は切り離された。

魔界、天界、人間界。
それを一つ一つ切り離し、天界は空へ。魔界は地底へ追いやられた。

人間が造り出した、たった一人の人間と、たった一つの剣によって。

その剣に対抗して、魔族も天使も武器を作ったが、'人間の英雄'はあまりに強かった。
いや、もはや、人間とは呼べないのかもしれない。

魔族と天使はたった数人しか生き残れなかった。
私も生き残りの一人である。
その中には、優秀な存在も残っていた。

なぜ、我々魔族は暗い暗い地底に落とされねばならなかったのか。
自然に恵まれない地に。
不自由な世界故に、今では魔族同士で争いが始まった。

'人間の英雄'は、我々にとっては絶望である。
しかし、各種族を各場所に分けるのは間違いだったかと聞かれれば、肯定も否定も出来はしない。

'人間の英雄'自身も、人間の世界を守る為に造り出された、被害者である。
世界は未だ、何も解決してはいない。
何を恨んでも仕方がない。

争い始めたのは、魔族と天使。

きっといつの日か、本当に'英雄'と呼ばれる存在が生まれることを信じている。

魔族、天使、人間。
その全てにとっての'英雄'がいつの日か生まれることを願っている。

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