一致


(ここが控え室か。うーん、大きな人ばっかり)

部屋の中にいる者達を見てリオは思った。

(私が戦いを始めたのはレイラを助ける為。助けることはできなかったけど‥‥)

リオはため息を吐き、シュイアに貰った剣を見つめる。

「次にゴズ・アマスとリオーー入場して下さい」

いきなりアナウンスが流れ、リオは慌てた。

「さぁて‥‥リオとか言うヤツはどいつだぁ?思い切り可愛いがってやるよ」

そう言ったのは、ギラギラと、手に握った太い短剣を舐めながら言っているがたいの良い男‥‥

(やばい、やばいって‥‥絶対あれだよ、私の相手!!あのゴツくてヤバそうな男だよ!!通貨の為とはいえ、絶対勝てないよ!?)

リオは確信して、試合放棄したくなった。

渋々と、リオは戦いの場に入場する。
自分より遥かに小さく小柄なリオを見下すように見て、

「なんだ、こんな小僧が相手か!つまらん」

ゴズは大笑いをした。
武器は短剣だけと思っていたが、右手に短剣、左手に斧を持っている。

「おーい?何か言えよぉーー!!」

無言でいるリオに対し、始まりの合図も告げずにゴズはリオ目掛けて短剣を向け、走り寄ってきた。

「ーーっ!」

ブンッーーとっさのことにリオは素早く反応できず、ゴズの短剣はリオの髪を軽く掠める。

「待ってよ!私はまだ剣を抜いてないのに!ズルい!」
「ああん?殺し合いにズルも何もないんだよ!」

ゴズは再び大笑いをした。

「殺し合いだって!?私はそんなのしない!」

リオはそう言ってゴズを睨みつけたが、

「殺し合いをしないだぁ!?この場に立った時点で殺し合いは始まってるんだよぉ!!」

ゴズは軽々と短剣を振り回してリオに連続攻撃を仕掛けてくる。

(あんな攻撃にあたったら、軽傷じゃ済まない!くっ‥‥どうする!?)

リオは攻撃を避けながら、必至に頭を働かせた。

(相手を殺さずに勝つには‥‥そうか魔術だ!)

リオはにっと笑い、不死鳥に教えてもらっていた初級魔術を唱える。

「不死なる者の炎よ!」
「なんだぁ?」

リオの呪文にゴズは首を傾げたが、リオの手から炎の球が放たれ、

「ーー!!?あぢぢぢッ!!」

ゴズの体に軽く火がついた。軽い炎だから火だるまにはならないが、火傷は仕方ないだろう。火が消えなくて、彼はその場を走り回る。

「よし!いけるぞ!さあ、どうする?このまま私が呪文の念じをやめない限り、あなたは燃え続けるよ。耐えるのは相当辛いと思うから‥‥」

リオが笑って言うので、

「ぐっ‥‥何が言いたい!?」
「リタイアと口にしてくれるだけでいいよ」
「だっ‥‥誰がぁーー!!」

ゴズは体に炎を纏わせたまま、左手に握っている斧をリオに振りかざした。

「わっ!!」

リオは慌てて斧を剣で受け止める。

(ーー重い!けど、なんだろう?これなら‥‥)

腕にまだ力の余裕を感じ、リオは彼の斧を剣で押していき、頭の中に炎のイメージが浮かび上がった。

(‥‥私の中に流れる、不死鳥の力?)

リオはそう思い、

「炎よ!!」

と、一言叫ぶ。握っていた剣に炎が纏わり、炎の圧がゴズの斧を激しく押し、彼ごとその場に倒れこんだ。

(‥‥イメージで、炎が出てきた。じゃあ‥‥)

リオがゴズの体に纏った火が消えるようにイメージしてみると、見る見る内に火は消えていく。

(凄い!魔術って、こう、イメージで使う感じなのかな!)

不死鳥の力の凄さを改めて感じ、

「私は人殺しをするつもりはないから、だから降参してくれたら助かるよ」

汗を拭いながらそう言った。


◆◆◆◆◆

観客席に帰る途中で、リオは自らの手の平を見つめながら歩き、僅かに手が震えていることに気づく。

(不死鳥の力とはいえ、恐ろしいな、魔術って。言い表せないけど、この体内に炎が巡っている感覚がある。それに‥‥なんだろう。最近の自分は、自分じゃないような気がしてくる‥‥シュイアさんと旅をしてた頃の私は、どんなだった?)

駆け巡る不安を抱えつつ、観客席へと繋がる階段を上ろうとした所で、

「おめでとうございます、リオ。見事な戦い振りでした」

聞き覚えのある女性の声。階段の途中に立っているのは、この国の女王、ルイナ・ファインライズ。リオは彼女に迎えられた。

「ルイ‥‥いや、女王様。ありがとうございます」
「今までで殺さず戦ったのはあなたとシェイアード様だけですよ」

ルイナは微笑みを見せ、

「リオ‥‥あなたはシェイアード様のお知り合いのようですから、あなたにお願いがあります」

リオはルイナの暗い表情を見て首を傾げる。

「もしかしたら、シェイアード様から聞いているのかもしれませんが‥‥」

ルイナは一息置き、

「私が実の父母を殺した、と」
「ええ、聞きましたが‥‥」

リオは目を瞑って頷いた。

「でも、私ではない。私ではないんです。ですが、国の方々は私がやったと思っているのです。私を狂った女王だと‥‥」

ルイナの瞳が軽く揺れる。

「では、いったい‥‥?」

リオが尋ねると、

「シェイアード様の家族を殺した者達です」
「えっ?」

彼女の言葉に、リオは目を見開かせた。


◆◆◆◆◆

「遅かったな」

観客席に戻ったリオを見て、シェイアードがそう言う。

「ちょっと疲れて、ぼーっとしちゃってた」

リオは小さく笑い、意識は先程のルイナとの会話で一杯だった。シェイアードは「そうか」と、一言いい、ぽんっーーと、リオは頭の上に乗せられた温もりを感じて目を見開かせる。

「おめでとう」

温もりは、シェイアードの手だった。リオの頭に軽く手を置きそう言ったのだ。

「は‥‥え?」

リオはぽかんと口を開ける。

「初戦、勝っただろう?おめでとうと言っている。見掛けによらず、強いんだな。魔術もなかなかのものだ」
「あっ‥‥あのっ、ありが、とう」

リオは顔を真っ赤にしたが、ある言葉に気づいた。

「って‥‥あれ?魔術が使えること、驚かないの!?」

通常、人は魔術など使えないはずなのに、と。

「驚く?なぜだ?魔術など誰でも使えるだろう?さっきの戦いでおかしくなったか?」

そう、シェイアードは軽く笑う。

「だっ、誰でも!?」
「‥‥?そうだろう?俺達人間が生まれた時から与えられた力だからな。本当にどうしたんだ?」

それを聞き、リオは黙りこんでしまった。

(ここは、本当に私の知っている世界なの?)

魔術が当たり前にある世界ーーフォード国を知らない人々。リオは不安になる。
そんな考えを振り払い、しばらくの沈黙の後で、

「そっ、そうだ。シェイアードさんに聞きたいことが‥‥」

と、リオは話を切り出し、

「今、こんなことを聞くのはあれだけど、あなたの家族を殺したのは誰なの?」

いきなりすぎる質問に、当然シェイアードは目を見開かせ、

「今、そんなことを聞いてどうする」

と、やはり少し怒ったような声を返される。

「いや‥‥この大会が終わったら、ほら、お別れになっちゃうかもしれないから」

リオはそう言いながら、先程ルイナが言っていた話と一致するかどうかを確かめたかった。

「そんなこと、話す義理はないだろう」

やはり一蹴されてしまい、そう言われることは覚悟しつつも、リオは肩を落とす。だが、

「まあ、ここまできたら何かの縁か」

と、シェイアードはため息を吐き、こう言った。

「人間ではなかった」

ーーと。

「人の言葉を話す魔物に殺された」

ーーと。

それを聞いたリオは、先刻のルイナとの会話を思い出す。


「シェイアード様の家族を殺したのは、魔物です。人の言葉を理解し、人の言葉を話す魔物でした!私の父母も‥‥その者達に‥‥!」

泣き叫ぶように、ルイナの体が震え出した。思い出しているのだろうか、その時の光景を。

「私だけが生き残ったことにより、私が父と母を殺したと言われているのです。私は‥‥父と母が私をクローゼットの中に入れ、隠してくれたから、生きて‥‥」
「だったらーー!じゃあ、この大会は?あなたが開いた大会だと聞いたのですが‥‥」
「これは、この大会は‥‥私です。私が、思い付いたものです」

リオはどうして‥‥と言う顔をして彼女を見つめる。

「私は、国の方々にもシェイアード様にも‥‥残虐な女王だと思われているのです。それならば、いっそ‥‥そんな女王になりきってしまえば楽になると思って‥‥」

ルイナの瞳から涙が溢れ落ち、止まらない。

「どうしてそんなことに!あなたはやっていないんでしょう!?だったらーー」
「‥‥好きな人に誤解され続けるのが、辛かったのです」

その言葉に、リオは言葉を詰まらせた。

「あの方は、私の言葉を何一つ聞いてくれなくなりました。私‥‥もう耐えられなくて‥‥」

か細い少女の声が、まるでカシルを想うレイラの声と重なって、リオは視線を落とす。それから、リオは真っ直ぐに彼女を見て、

「‥‥こんな大会を開いた後ですけど、あなたの手はまた汚れていない。あなた自身は、誰も殺めていない。だから、もう一度、話をしてみましょう、シェイアードさんに!私も手伝うから」

リオは笑顔でそう言って、ルイナの両手を握り、

「あなたを選んで‥‥良かった」

と、ルイナはリオの手を握り返した。

「選んで?最初に渡してくれたあの封筒のこと?そういえば、なぜ‥‥」
「‥‥あれは、あなたとシェイアード様にのみ渡しました。実は私、あなたが船から出てくるところから見ていたんです」

ルイナは涙を拭い、

「あなたが、明るくて、真っ直ぐな瞳をしていて、そんな姿が‥‥亡くなられたシェイアード様の弟ドイルに、似ていると感じました」
「シェイアードさんの、弟に?」
「だから、あなたはきっと私の言葉を信じてくれると感じたんです‥‥」

そんな単純な理由にリオは肩透かしを食らった気分になるが、

「まあ、なんです。とりあえず、まずはあなたの言葉をシェイアードさんに聞いてもらわないとですね」
「はい‥‥がんばります」

と、ルイナは愛らしく笑う。
それにリオは困ったように笑い、

(なんだか、複雑だなぁ‥‥)


◆◆◆◆◆

(一致した。人の言葉を話し、理解する魔物)

ルイナが言っていたことと、シェイアードの話を聞いてリオは確信した。

「でも、その魔物はいったい?」

リオがシェイアードに聞くと、

「わからない。ただ奴らは俺の、フライシル家を終わらせるなどと言っていた」

そう言って、シェイアードは数年前のことを語り出す。


『父上、母上!?』

父も母も、無惨に斬りつけられた、あの日。

ブンッーー‥‥閃光が、弧を描くように流れる。
俺は叫んだ。だが、何も出来なかった。
右目と体から血が吹き出し、宙に舞う。

『これでフライシル家も終わりだな』

確かに、魔物のドス黒く、低い声が聞こえたんだ。


「恐らく、奴らは俺が死んだと思ったんだろう。俺は気絶していて、目が覚めたら家族の遺体はなくなっていた‥‥だから俺は剣を取った。力が欲しい。奴らを、今度は俺が」

包帯が巻かれた右目を押さえながら、シェイアードは低く言う。その目には憎悪が宿っていた。


*prev戻るnext#

しおり


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -