十二年の軌跡


そこは無だった。何も無い世界だった。
今まで死にそうになったことは何度かあった。生きていることの方が奇跡だった。
とうとう、自分は死ぬんだと理解できた。
何もない無の空間で、クリュミケールは一人立ち尽くす。

(‥‥ハトネは?)

先程まで共にいたはずの彼女の魂がここにはなくて、小さく息を吐いた。

(アイムさんにニキータ村の皆、女王様に会えるかな。シェイアードさんは‥‥物語の中に還ってしまったのかな)

そう思いながら両の手を見つめ、

(オレの進んで来た道は正しかったのだろうか、不死鳥‥‥)

もう、世界に存在しない彼に問い掛けた。

(リオラはどうなったんだろう‥‥寿命を使ってしまっただなんて‥‥いったい、どうなるんだろう)

あまりに静寂すぎて、色んなことを考えてしまう。

本当に、色んなことがあったーーありすぎた。


何も知らない人間として、シュイアと生きてきたあの頃。

サジャエルやカシルと出会い、変動していく日々。

ハトネやフィレア、アイムとの出会い。

自分を大きく変えてくれたフォード国‥‥レイラとの出会い。

ラズとの、今思えば運命だったのかもしれない偶然なる出会い。

シャネラ女王ーー初めて人の死を見た瞬間。

ロナスとの出会い、エナンとの出会い、不死鳥との契約。

レイラとの別れ。

シェイアードにハナ、ルイナ、ナガ、イリスとの出会いーー物語の世界、初めて本当の意味で好きになれた人。

カルトルートとレムズとの出会い。

リオラの存在、シュイアやサジャエルの目的。

生きていたロナス、フードを被った者達。

一旦途切れた自分ーー新たな人生、クリュミケール。

ニキータ村。大切な家族で仲間で、守ると誓った少年アドル。

ニキータ村に住む少女、リウス。

キャンドルとの出会い。

女神イラホー。

仲間達との再会。

シュイアとカシルの過去。

創造神の存在。

シェイアードとの再会、再びの別れ。

カナリアの正体。

ロナスとの決着。

ハトネ、サジャエルの死。

妖精王ザメシア。

叶うはずのなかったレイラとの再会。

(‥‥たった十二年‥‥実質、不死鳥の山での四年間は時間の経過を感じなかったから八年の感覚か。それでも、短い人生で、いろいろ‥‥あった)

クリュミケールは目を閉じ、ポケットからエメラルド色したリボンを取り出す。
静かに微笑み、たった一人、愛した存在を想う。
自然と涙が溢れた。

シェイアードと二度目の別れをした時に流せなかった涙が今、流れてくる。

悔いはないと、リオを守れたと、救われたと‥‥彼は笑って、消えていった。

(もっと一緒にいたかった。このまま死ぬのなら、私の魂はシェイアードさんの傍らに行けるだろうか?そうだったら、幸せなんだろうな‥‥)

そう考えて体の力を抜く。
神々というものを結局理解できないままだったが、理解できないまま、神々は滅び行く。
そして、十二年前からサジャエルに【見届ける者】と呼ばれ続けていた自分も‥‥
女神というものも、今でもよくわからないが‥‥


『クリュミケールさん』
「‥‥?」

瞬きを数回した。
声が聞こえた気がしたのだ。自分の名を呼ぶ声が。

そんなわけないかと、微笑する。だって、ここには何もないし、自分しかいないのだから。
ーーけれども、こんな無の世界に輝きが見えた。

それは本当に小さくて、でも強い光。
まるで、隙間から差し込むあたたかい一筋の光。

『ニキータ村が在った場所で‥‥待ってるから』

光によく似た彼の言葉が一番に浮かぶ。

(‥‥そうだな。約束は、守らないとな)

先程、自分の名を呼んだ声は、確かにアドルのものだった。

自分を心配してくれている彼の意識が、こんな無の世界まで届いたのだろうかとクリュミケールは笑う。
そう、約束だ。

(‥‥必ずニキータに帰るよ。リウスを連れて。『ただいま』って、笑って言うんだ。皆きっと、待っていてくれる。だから‥‥必ず帰るんだぞ、リオラ‥‥)

クリュミケールは何もない後ろを振り返り、

(創造神‥‥ハトネは‥‥消滅してしまったんだろうか。さっきまで、一緒だったのに‥‥それに、サジャエル)

サジャエルは消滅する時に、

『‥‥私の‥‥望みは‥‥アル‥‥あなたの‥‥願い、を‥‥』

そう言って、消えて行った。

(アル。それが、かつての【神を愛する者】であり、不死鳥の契約者、ペンダントの持ち主のあの少年‥‥なのだろうか。サジャエルがオレの‥‥母‥‥イラホーはオレの生まれた地を知っていると言っていた‥‥本当に、そう、なのか?サジャエルの子供だから、オレは、女神‥‥だったのか?)

もう、誰にも聞けない。
いや、もしかしたら、ザメシアは知っているかもしれない。
しかし、今さら本物の家族などと‥‥

小さく息を吐きながら、何もない空間を歩き出した。

(フィレアさん、怒っているだろうな。ラズは今‥‥どんな気持ちだろう?カルトルートとレムズには本当に悪いことをしたな‥‥シュイアさん、リオラと会えるかな‥‥レイラは、これからどうするだろう‥‥きっと、カシルが側にいてくれるよな)

そこまで考え、俯きながら進み、

『お姉ちゃんが‥‥君が守りたいものを、俺が守る。だから、君は安心して君の道を歩いてくれ。俺は‥‥いつまでも待つから』

最後に聞いたカシルの言葉を思い出す。

(はは‥‥大変だ。しまったな‥‥カシルのことだから、本当にいつまでも待つのかも。何十年も、オレを捜していたんだから)

そうして、平和だったニキータ村の姿を頭に描いた。
アドルがそこにいて、キャンドルもいるのかもしれない。

『だから!ニキータ村では皆、家族なんだよ。暮らしてきたならわかるだろ?誰かが辛い時は、誰かを励ます。それが、家族だ。出会った時間なんか関係ねーよ。まあ、何があったか知らないが‥‥安心しな、俺達は味方だからな』

『何があっても家族だよ。ニキータ村はなくなっちゃったけど‥‥おれ達はずっと、家族だよ。だから、クリュミケールさんに辛い顔をさせる人がいたら、ハトネさんでもラズさんでもおれが倒してあげる!
それに、あなたが誰かは知らないけど、あなたが相手だって、おれはクリュミケールさんを守るよ!』

裏切りに打ちのめされていた時に、あの時の二人の言葉には酷く救われた。
いや‥‥馬鹿馬鹿しくなったのだ。悩んでいることが。

五年前、本当に、辛くて苦しかった。
シュイアに裏切られて、存在を否定されて。
けれど、シェイアードが助けてくれた。ニキータ村に‥‥アドルに巡り会わせてくれた。
五年間アドルと暮らして、傷付いた心は徐々に癒えていった。

『無理に帰らんでいい。約束もしなくていい。旅人は、きっと旅先で何かを見つけるのじゃから。リオ。お前が安心してゆっくりと眠れるような、綺麗な、美しい場所を見つけるといい』

五年前のアイムの言葉が心に染み渡る。

(‥‥帰ろう。アドルが待つ場所へ‥‥家族の元へーー美しい場所へ)

友達だ、家族だ。いつもいつもそう言ってくれたアドル。

不死鳥との契約でこの身は十六歳で止まってしまったけれど、二十四年の人生。
リオとして生きた十九年。
クリュミケールとして生きた五年。

たった五年なのに、それでも小さな少年に教わったのだ。家族とはなんなのか。
だからこそ、シュイアと向き合えた。
だからこそ、一人で抱え込むのをやめて、仲間と共に歩もうと決めた。

前へ、前へと進む。

『お前はお前の時代を生き、思うままに生きろ。それに、お前を大切に想ってくれる者もいる』

シェイアードの言葉が、背中を押してくれる。

(アドル‥‥本当にありがとう。君のお陰で、オレに帰るべき場所が出来たんだ。家族の絆を取り戻せたんだ。君は暗闇を歩き続けていたオレを引っ張り上げてくれた、一筋の光だった‥‥)

一人ではないと教えてくれた。
彼のお陰で、仲間達の思いを汲み取ることが出来た。

間違って、失って、後悔をしたからこそ、過ちから多くを学び、選び取り、自分の意思を手に入れた。

光へ、光へと、足を進める。
あの笑顔が待つ場所に。


◆◆◆◆◆

楽園と呼ばれた地での戦いの後、何も知らない人々はいきなりの災害に混乱していた。
空は黒く染まり、大地は揺れ、地面がひび割れた地域もあった。だが、大災害になる前にそれはピタリと止み、それでも人々はいつまたそれが起きるかもしれないと、世界はざわめいていた‥‥
誰も知らないのだ。この世界に神々がいたなんてことを。神々が消滅したということを‥‥誰も、知りはしない。

ただ、不死鳥の存在は認知されていた。目にした者は少ないが、人々は不死鳥を神と言うよりは不思議な力を手にした魔物と思っていたのだ。
そして、不思議なことに世界から魔物の存在も消え去った‥‥神々が消滅したからなのだろうか。

同じく、魔術の存在。
今はもう、元から魔術の使えるエルフ達でさえも、魔術は使えない。


一ヶ月後ーー。
災害は日常に溶けていき、ざわめいていた人々もいつも通りの日常を送っている。

そんな中で、

「受け入れてくれるものなのね‥‥」

レイラ・フォードは目を閉じ、深く息を吐いた。

「あの日、クリュミケールさんがフォード国を再建し、紡いでくれた道ですよ。レイラ王女‥‥じゃなかった、レイラ女王」

言い直しながらラズは微笑む。

「やはりこの国を治めるのは、この国に愛された貴女ですからね。私達の大切な故郷‥‥今の貴女になら任せられます」

頷きながらフィレアも言い、アイムを想った。

「‥‥死んだはずの私を再度受け入れてくれた国民達。私がお母様の代わりになれるかわからないけれど‥‥この国を愛してくれたあの子の為にも、私もまたこの国を、レイラフォードを精一杯愛し、守り抜いてみせるわ」

レイラフォードの人々は死んだと聞かされたレイラが現れたことに戸惑ったが、レイラはリオの名前と不死鳥の話を人々に語ったのだ。
人々はフォード国再建に尽力したリオを当然覚えている。

そして、死の山から不死鳥が消滅した話をした。
リオが不死鳥に願い、自分は生き返ったのだということにした。
実際は不死鳥の独断だったが、あながち、嘘ではない。

レイラフォードの人々はそれをすぐに信じた。
燃え盛るフォード城へ真っ先に駆けて行くリオの姿を覚えている者もいたからだ。
リオという少女は、レイラの為ならばなんでもやってのけるーー人々はそう感じていたから。

(ふふっ‥‥リオ。なんだかんだ全部、あなたのお陰ね)

レイラは友を思い、小さく微笑む。

「それで?カシルはこれからどうするんだよ。これからも女王を支えるのか?」

不意に、ラズは無言で立っている彼に尋ねた。

カシルには約束があった。レイラを守るという約束が。だから、彼はあの戦いの後からレイラフォードに留まり、女王となったばかりのレイラを陰ながら支えている。
ラズはムッとした顔でカシルを睨み付けた。
本当にそれでいいのかよ、と言う風に。

「だんまりかよ!全く‥‥まあ僕には関係ないけど。って言うかさ‥‥フィレアもフィレアだよ!シュイアさんの所に行かなくていいの?」

次にラズはフィレアに聞き、

「シュイア様は何も言わず何処かへ行ってしまったし‥‥たぶん、リオラを捜しているのよ。それよりラズこそなんなのよ、また子供みたいな口振りになって!ザメシアはどこに行ったの!私のことも呼び捨てにしちゃって!」
「レイラフォードは知り合いばっかだし、僕が大人みたいな口振りしてたらおかしいでしょー!いいじゃんなんでも!」

なんて、二人は言い合いを始めてしまった。そんな二人をカシルは無言で、レイラは苦笑しながら見つめ、

「カシル様、ちょっといいですか?」

と、レイラはカシルを手招きする。
二人は口論しているラズとフィレアを置いて、街中を歩き出した。

「やっぱり、ちゃんと話しておかないとって思ったんです」

レイラは少しだけ俯き、

「今でも、あの日の想いは変わっていません。外の世界に憧れていた私の目の前に現れたあなた。これを、一目惚れと言うんでしょうね‥‥あなたの孤独な目を、悲しい目を、なくしてあげたかった。あなたの笑顔が‥‥見てみたかった。でも、私じゃ駄目だったんですね‥‥私は、国を捨て、母を捨て、友を捨て‥‥それほどまでにあなたが愛しかったのに」

そう話す。カシルから、レイラの死後の話を聞かされた。カシルとクリュミケールが出会った日の話も聞いた。
ならば、出会った時からすでに、叶わぬ恋だったと言うことなのだ。
改めてそう思うと、レイラの目から涙が溢れ出す。

「だから‥‥もういいんですよ、カシル様」

顔を上げ、涙に濡れた顔でレイラは微笑み、彼の前に立つ。

「あの子が‥‥リオが昔と変わらないまま私のことを大切に思ってくれているのはわかる。でも、だからって、カシル様が約束を守る必要はないんです。私はもう、大丈夫」

そう言って、レイラはそっと彼の唇に口付けた。
それはほんの数秒で離される。

「あの日、あなたが下さった口付けを、あなたにお返しします」

レイラは震える声で、真っ直ぐに彼を見つめた。

「もう、ここにいなくていいんですよ。私は今でもカシル様を愛しています。けれど、あなたの心がここに無いのはよくわかる‥‥そんなの、辛いです」
「レイラ‥‥」

ただ、約束の為にここにいた。
ただ、かつての贖罪のためにここにいた。
だが、本当にそれでいいのだろうかとカシルは思う。
かつて自分のせいで巻き込み、傷付けてしまったこの少女を一人、置き去りにしてもいいのかと。

「ニキータ村‥‥アドルとキャンドルでしたっけ。あの二人は村を建て直しながらリオを待つと言っているんですよね。たぶん、リオと過ごした時間なんて短いはずなのに、あの二人はリオを大事に思い、リオもあの二人を大事に思っているんだろうなと感じました。それなら‥‥カシル様が本当にいるべき場所はここじゃない」

レイラはニコッと笑い、

「待つべき場所で待つべきだと思うんです。リオが帰るべき場所は、もうフォード国じゃないから‥‥それに、私はきっと、たくさんリオを苦しめてしまったんだと思います。あの子の涙を見て思いました。幸い、母や私の財産は無事に保管されていました。ニキータ村への援助金を送れると思います」

そう言って、レイラは軽くカシルの胸を押し、行くべき場所へ行くようにと促した。
カシルは数秒レイラを見つめ、小さく頷く。
これ以上、何かを口にしてしまえば、余計にレイラを傷付けてしまうだけだと理解し、彼は何も言わず彼女に背を向け、その場から立ち去った。
そんな彼の背中を見つめていたが、それすらも辛く感じてしまい、レイラは目を逸らす。

(もう、我が儘な子供のままじゃいられない。お母様‥‥私がフォードを、レイラフォードを守るわ。愚かな過ちを犯してしまったけれど、不死鳥に、リオに救われたこの命‥‥この国の女王として、私はこの国の為に命を注ぐわ)

くるりと、レイラもカシルが去った方向から背を向けて、聳え立つ城を見上げた。
まだ、消化しきれない想いを抱えたまま、それでもーー。


◆◆◆◆◆

「はあ‥‥人手不足だ」

キャンドルは金槌を放り投げ、瓦礫の上に腰を下ろす。

「あはは、仕方ないよ。おれ達、二人だけなんだもん‥‥お金も少ないし、せめておれ達の家だけでも建てなきゃ!」

アドルはそう言って、木材に釘を打ち付けていた。

「ふっ‥‥長年の俺のバイト代が消えていくのが目に見えるぜ‥‥とりあえず、近場で働くかな。もうちょっといろいろ必要だしなぁ‥‥金さえあれば、家ぐらい建ててもらえるのに‥‥くうっ‥‥」
「嘆いたって仕方ないよ!クリュミケールさんが帰って来るまでに、ニキータ村でまた暮らせるようにしておかなきゃ!」
「‥‥はあ、お前、ほんっとにあいつのこと好きなんだなぁ」

ため息混じりなキャンドルにアドルはにっと笑い、

「家族で友達だからね!キャンドル兄ちゃんも同じだよ!ニキータ村は」
「みーんな家族、だろ」

アドルの言葉の途中でキャンドルが口を挟み、よいしょと立ち上がって放り投げた金槌を拾い上げ、

「夕方まで頑張るかー」

と、真昼の空を見上げる。

ーー青空に赤みが増した頃、アドルとキャンドルは大きく伸びをした。
作業はあまり進まなかったが、始めたばかりだしこんなものだろうと苦笑する。すると、

「‥‥なんだ、フィレアから聞いていたが、本当にたった二人で建て直そうとしているのか」

背後から呆れ混じりな声がして、

「あっ‥‥カシルさん!?」

振り向いたアドルは予想外の人物の姿に驚いた。

「よお、一ヶ月振りだな!なんだよお前、レイラ様の護衛騎士やってんだろ?彼女ほっぽってどうしたよ」

と、からかうようにキャンドルが言い、

「レイラが時期に、ニキータ村の為に援助金を送ってくるそうだ。それさえあれば、お前達二人で建て直す必要もないだろう」

そのカシルからの言葉に二人は顔を見合わせ、

「マジかよ!大陸外な上に辺鄙な村の為に?」
「兄ちゃん、故郷を辺鄙とか言わないでよ」
「でもよ、女王様ブーイング受けないか?大陸外の村の為に援助金とか‥‥こっちは助かるけどよぉ」

おろおろしながらキャンドルが言うと、

「‥‥レイラフォードを建て直すのに尽力した者の名前を出せば、誰も何も言わないさ。むしろ、お返しとばかりに受け入れるだろう」

そのカシルの言葉になるほどと二人は頷いた。

「じゃあ、カシルさん。今日はわざわざそれを伝える為に来てくれたんですね」

アドルが言うと、カシルは二人から目を逸らし、黙りこんでしまうので、

「ん‥‥?もしや、レイラ様に振られたとか?」

キャンドルがそう言うと、

「えっ?でも、話によるとレイラ様がカシルさんを好きで、カシルさんはクリュミケールさんが好きなんですよね!」

そう、アドルはキラキラした目でカシルを見つめる。

「おっ‥‥そっか。じゃあなんだ?ここで一緒にクリュミケールを待ちますってか?ははっ、んなわけないか!お前みたいな奴だったら、剣の腕を活かす方がいいしな!」

なんて、二人で色々と考察しては盛り上がっている。カシルはため息を吐き、

「ここで待つ為に来た‥‥と言ったらどうするんだ?」

と、二人に言う。
アドルとキャンドルは目を丸くし、ぱちぱちと瞬きをするしかなかった。

ーー日が沈んでいく。
空には点々と薄く星が浮かび、滅ぶことのなかった大地を満月が見下ろしていた。


〜第八章〜望み〜〈完〉


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