上級天使ウェル

コンコン、と、ノック音がして、

「はーい」

わたくしが玄関の扉を開ければ、

「まあ、マグロちゃん。怪我してるじゃないの」

後輩のマグロちゃんの姿があった。
腕やら頬やら、数ヵ所に切り傷がある。

わたくしは上級天使ウェル。
戦いの力より、治癒の力に長けて上級天使に選ばれたの。
だから、家で診療所をやっているのよ。

「そうなんですよー。任務先が黒い影たちの討伐だったんです。数が物凄く多くて……」

黒い影とは、近年、天界に現れている異形の存在。
人の形をしているけれど、全身が真っ黒で、目とか鼻とか、そんなのも無い、真っ黒。
だから、まるで影みたいなそれを、わたくし達は黒い影と呼んでいる。

そして、近年わたくし達、上級天使の仕事は、その黒い影の討伐、市民を護ることが重点的になっているのだけれど。

黒い影は、倒しても倒しても、次の日にはまた大量に現れる……

それも、現れる場所は不確定だから、わかり次第わたくし達は赴くの。

最近は、カーラさんが朝から晩まで特に頑張ってくれているから、とても助かるわ。
でも、カーラさん、無理しすぎだから、心配だわ…

「さ、マグロちゃん。椅子に座って」

わたくしはマグロちゃんに言い、マグロちゃんの怪我した箇所に手を翳す。

わたくし達、天界の住人は、治癒の力をそれぞれ持っているの。

「やっぱり、ウェル先輩の治癒術は最強ですね!綺麗さっぱり、痛みもなくなるし、傷痕もなくなるし!」

そう、普通の治癒術では、痛みまでは治まらない。僅かな痛みは残るし、傷口もかさぶたになる程度。

ここに来て、治癒を必要とするのは、ほとんど黒い影と戦う上級天使ばかり。
だから、治癒する度に、わたくしは申し訳なくなる。

わたくしも、同じ上級天使なのに。なのに、戦う力が無い。
皆、怪我ばかりするのに、わたくしはここで、そんな皆の傷を癒すしか出来ない。

そんなわたくしが、上級天使などと言う、高階級を持っていていいのか…
わたくしは、いつも悩んでいるの。

「ウェル先輩?」

黙り込んでしまったわたくしを心配するように、マグロちゃんが首を傾げていて、わたくしは慌てて微笑んだ。

「でも、ウェル先輩が居て、本当に助かります。なんて言うか、怪我を治してもらう度に、家に帰って来たー!って感じになりますし、それに、ウェル先輩が居なければ、オレ達は安心して戦えませんから」

屈託なく笑う、若い若い上級天使の少年。
純粋過ぎる少年だから、だから、マグロちゃんの言葉は、まっすぐわたくしに届く。

「…ありがとう、マグロちゃん」



わたくしは、自分の立場に悩むけれど、 わたくしを必要としてくれる。
そんな人が居る限り、わたくしは、誠意を以て、最高と称されるこの治癒術で、皆を助けていこう。


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