"夏祭りに行きませんか"
そう誘われたのは一週間前。特に断ることもなかったので二言返事をしたはいいものの、夏祭りとは七夕祭りのことだったのかと気付いたのは最近のことだった。東京の七夕が晴れることは滅多にないらしい。それを裏切らないかのように今日の天気は厚い雲に覆われていて、今にも降りそうだった。夕方から夜にかけての降水確率は60%。微妙。
お祭りだからといって浴衣を着込むのはなんとなく、張り切ってるみたいで柄じゃないと思ってたのに、「デートなのに浴衣着ないわけにはいかないでしょ!」と何故か私よりも張り切ってるのはお母さんなのは謎。雨だったら確実に着て来なかったのに。
「…すみません、お待たせしました」
待ってないよ、と見る彼の姿は昼間と変わらない制服の姿。部活終わりにそのまま来たのだと分かる。と同時に疲れているのによくこんなとこ来たがるなぁという思いもあったけど、さすがにそれは申し訳ないから言わないでおこう。
「何か食べる?部活終わりでお腹空いてるでしょう」
「空いてます」
まぁ、だよね。と近くにあったお好み焼きを買って適当な所で食べる。屋台の並びから少し離れると一気に雑音が遠く感じてまるで別世界のように感じる。
「棗さん」
「ん?」
「…あの、浴衣、似合ってます」
ぼーっと人の流れを見てた横からかけられた声に日吉くんを見る。そこには何も読み取れないいつものポーカーフェイスがあるだけなんだけど、
「……うん、ありがとう」
着てきて良かった、と少しだけ思った。
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