夜になる頃には、あの子たちには負けねぇ!という意味も分からない対抗心に燃えた。売られた喧嘩は買うしかない精神。…まあ、勝手に買ったんだけど。それもいい、私、男らしい。

時刻は23:55をまわった。
携帯を握り締める手が少しずつ汗ばむ。考えとしては単純に、とりあえずはあの子たちに一番に祝わせる訳にはいかない。もうそれしか思いつかなかった。この、単細胞め。
メールか電話か、悩んだ挙げ句に結果は電話。多数決だったけど、被験者は内緒。
そろそろ時間かな…どうかな。あくまで然り気無さが大事、そう然り気無く。
59分になったところで意を決して通話ボタンを押す。
寝てたら、どうしよう。


「…はい、もしもし」

「わっ、で、出ちゃった」

「…出ちゃった、って…そっちがかけてきたんでしょう」


思いの外3コールほどで電話に出た日吉くんに驚きつつも、大変だ、まだ、12時をまわっていない。


「で、何か用ですか」

「あ、いや、用っていうか、あの、ちょっと待って」

「はあ?」


やばい、1秒1秒が、長い。無言が続く中、急に昼間の会話を思い出しちゃって、切られやしないか、不安。振り回していないか、不安。


「……棗さん?」

「、あっ、えと、大丈夫」

「いやだから、」

「日吉くん、」


一回、電話口に気付かれないように、深呼吸。ほんと、私がここまでするなんて、ほんと…。


「誕生日、おめでとう」


一瞬、止まる。無言。え、ちょ、今日だよね。5日だったよね、誕生日。また、別の不安が押し寄せる。


「今日じゃ、ないの。誕生日……」

「あ、…はい。今日、ですが。…その為にわざわざ、」

「…まあ、そう、かな。ちなみに、……いちばん?」

「え?」

「おめでとう、日吉くんに言えたの」


また、無言。そして小さく、はい、と呟くのが聞こえた。なんていうか、よっしゃ!っていう気持ちよりも、携帯の向こう側なのに、日吉くんが凄く照れてるような感じが伝わってきて、急に自分がした行為を改めて、うわ、私、


「…これじゃあまるで私が一番に祝いたかったみたいじゃん!なにこれ恥ずかしい!」

「棗さん、まだ繋がってますから」

「あ、うん、そうだった…」

「一番に、祝ってくれようとしたんじゃないんですか?」


ああ、もう見透かされてるよ。そうだよ、負けないように、って、彼女だって、一番にお祝いしたかったよ。でも恥ずか死ぬ手前の私には、うん、としか今は言えない。


「…ありがとう、ございます。その、嬉しい、です」


電話で良かったなぁ、と。多数決では直接、なんてのもあったけど、無理。きっと、お互い無理。
じゃあ、と切ろうとしたところで思い出す。ちょこっと忠告でもしときますか。


「あ、朝、なんか女の子たちが待ち伏せするって言ってたから、一応気を付けて、」

「…へえ。………じゃあ、一緒に行きますか」

「へ?いや、朝練でしょう」

「はい。だから6時に行きます」

「早っ」


少しだけ、笑った気がした。
なんだ、不安なんか、なかった。言わなくてもたぶん日吉くんには分かってて。年下なのに、たまに凄く大きく感じる時がある。凄いなぁって、私小さいなぁ、って。きっとそれも会う頃にはなくなっているんだろう。
さあ、朝早く起きる為にはもう寝なければ。
今日はまだ、始まったばかり。




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