「こっちにはいらっしゃらないわ!」

「絶対今日中に見つけるのよ!」


あちこちで飛び交う女子たちの会話。なんですか、リアル鬼ごっこ?逃走中?この学園はなんなんだ。
朝からずっとこんな調子であり、女子たちが血眼になって探している人物は一人しかいない、跡部景吾だ。たかが誕生日、されど誕生日。なんだよもう。休めよ。

また一人、二人と跡部景吾を探し回るグループとすれ違う。ある意味尊敬するわ、私にはそんなに一生懸命出来ることなんてないんだから。
しかし、私はやっぱり運がないようだ。少し先、階段下のスペースに、なんてこった、我らが学園の生徒会長が中腰で隠れているなんて。あんなダサい格好も出来るなんて。


「おい!お前、報道委員のお前だ」

「……」

「おい、俺様を無視すんじゃねえ!」


うわー。もうなんだよー。そんな中腰姿勢で俺様とか言われても全然俺様感ないわー。
授業以外では人通りも少ない特別教室棟も、時たま女子生徒が通りすぎる。こんなところで年中主役の跡部景吾と話してるところなんて見られたら、ちょ、確実に私殺される。


「今ここで、でけえ声でお前の名前読んでもいいんだぜ。アーン?」

「……もう、うるさいなぁ。なんですか」

「俺は今ここから出られねぇ。確実に身動き取れなくなるからな。そこでお前に囮になってもらう」

「やだよ」


やだちょっと何言っちゃってんのこの人。囮になってもらう、じゃないよ、嫌に決まってんじゃんそんなの。


「てか、携帯で助けでも呼びなよ」

「ふっ、俺様としたことが教室に忘れちまったぜ」

「そうなんですかー、残念。それでは」

「あ、おい待て!」


なんだ、意外にダサかったわ、跡部景吾。あんな俺様ナルシストよりもっと親しみやすいアホだったわ、と思いながらその場を去る。小声で話してたとはいえ、いつ見つかるか分からない。怖い怖い。


「…どうしたんですか、二年の教室まで来て」

「特別教室棟の西階段の下に君たちの部長が隠れてるから助けたげて」

「は?え、ちょっと、棗さん」


怖い怖い、とは思ったけど私ってば優しい。これで日吉くんだか誰かテニス部に助け出されるだろう。
しかし、今日は平日。授業もあれば、部活もある。
時々聞こえてくる、悲鳴に近いような歓声を遠目に御愁傷様でした、と心の中で呟く。そんな10月の始め。





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