羨ましいくらいの長髪とキューティクル。男にしとくには勿体ない、くれ。が一番の第一印象。あとは良く知らない。それが私の中での宍戸亮という人だった。
彼が負けた試合は目の前で見た。都大会などの、まあ氷帝にしてみれば小さい大会で、わざわざレギュラーが出るほどでもなくてもテニス部広報としては見に行かなければならず。しかし、それで負けちゃったのを目の前で見てしまった私。正直、うわーって感じだった。あとは良く知らない。
「ねえねえ!宍戸くん、髪切っちゃったって!」
「みたみたー、ちょっとショック〜」
そんな風の噂を聞いて、あー切っちゃったんだ、勿体ない、くれ。と思ったのもいつの話だったっけ。
たまたま立ち寄った購買。
お弁当を忘れて、久しぶりに何買おうかなぁ、と思った目の先にチーズサンドがある、しかも残り一個。ラッキー、と手を伸ばそうとしたら反対側からも同じく伸びる手が見えて、お互い止まる。
「あ、わりぃ。お前もこれ?」
「はぁ、まぁ」
「あー…そうか……」
そう呟いて、凄くバツが悪そうに頭をガシガシかいた。まあ、私も物凄くチーズサンドが食べたいかと言ったら、ぶっちゃけそうでもない。でもきっとこの人は物凄くチーズサンドが食べたいんだろうと思った。勘で。
「いや、いいです。別のでいいんで」
「え!や、でもお前の方が若干早かったし」
「いや、本当に。私ほらこれでいいんで」
と適当に取ったタマゴサンド。なんでもいいんだよね、ほんとに。分かってもらったのか、その彼はサンキュー、といかにも爽やかスポーツマンのような笑顔を見せてチーズサンドを買って行った。
「棗さん、宍戸さんがお礼言ってましたよ」
「宍戸くん?お礼?なんのこと」
「なんか、誕生日プレゼントとかなんとか。……あげたんですか」
頭にはてなが浮かんでは消えない私の視線の先には、さっきチーズサンドを譲った爽やか青年。
「あー…、あげたかもしれない」
髪切ったどころじゃないだろ。別人だよあれ、あの人が宍戸くんだったのかよ。と気付かされるまでそう時間はかからなかった。
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