次の日。一時限の授業で辞書がいることを、思い出してロッカーに向かう。先客がいた。なぜか悠太のロッカーの前で立ち尽くす、高橋さん。最近よく会うなぁ、って同じクラスだから当たり前なんだけど。
「あ…○○さん、お、おはよう」
「…おはよ」
挨拶だけして、自分のロッカーの中を探す。高橋さんは立ったまま。
「ゆ、悠太くんとわかれ、たんです」
そうこぼした高橋さんに、そうなんだ、と答えながらも昨日の会話から、そうなんじゃないかと薄々感じた。高橋さんは、悠太くんに無理させても…って言ってたけど、多分それは違う、気がする。
「それ、返しに行ってくれば」
「え?」
「高橋さんなら、大丈夫、だと思います」
CDを指しながら言う私に、うん、と笑顔で駆けていった高橋さんの後ろ姿を見て、私は辞書を引っ張り出した。
「いやーこのたびは残念だったね!ふられんぼう将軍!」
ふられんぼう将軍って。
悠太が別れたという事実に、なぜか嬉しそうな三人。祐希はマンガ読んでるし、私もこの前読んだ文庫本が意外に面白かったから、それを読んでる。
「おたいふ とってきまーす」
ふいにマンガを閉じた祐希に袖を引っ張られる。
(…?一緒に来いと)
扉を開けると悠太が階段を降りているのが見える。祐希と人差し指を口に当てながら、静かに忍び寄る。
大好きな背中まで あと一歩。
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