昼休みしか仕事がないからなった図書委員だったけど、新書の入れ替えを手伝ってと頼まれ、今やっと終わった。もう夕方だ。
「ご ごめんね、悠太くん。フラないでくれたり…」
下駄箱まで来たところで聞こえてきた高橋さんの声に足を止める。後から続いた声に悠太もいるのが分かる。なんで、こんなとこで…と思ったけど、いつまでもここにいるわけにはいかないから、小さく溜め息をついて出ていく。
「後ろ、ちょっとい?」
私の下駄箱のちょうど前に座ってた高橋さんに声をかける。
「え、あっ、ご ごめんねっ」
急に出てきた私に驚いたのか、慌てて腰を上げてくれた。ごめんね、と謝って靴を取る。
「棗、まだ学校にいたの」
「………うん」
いたらダメなのか。今の私はイライラしていた。悠太の顔も見ないで答える。
「バイトは?」
「ない。あっても迎え、いいから。……いい加減一人でも帰れるから」
短く手早く答えた。悠太が付き合ってから、祐希と帰ってから、色々考えた。私はみんなに頼りすぎていた。甘えすぎていた。ずっとこういうことは続かないことを知った。だから……
「行くよ」
「え?」
「棗がいい、って言っても、オレは行くよ」
悠太はまっすぐこっちを見ていた。まっすぐ見つめるその瞳を、私は見ることが出来なくて、思わず目を逸らす。
「……今日は、バイトないから」
そういうのが精一杯だった。
二人の話の邪魔をしてしまった。謝るのもどうかと思ったけど、目が合った高橋さんにごめんね、と言うとううん、と顔を横に振った。高橋さんは、あまり良く知らないけど、いい子、だと、思う。高橋さんになら悠太を…と考えて、私は近所のオバサンか、と少し笑う。
「ごめん。……また明日」
首を傾げた高橋さんに、そう挨拶をした。意外そうに、でも嬉しそうに、「また明日」と返してくれた。私はそのまま昇降口を出た。
少し前まで暑かった外も、肌寒い風が吹いていた。オレンジ色の空は、もう秋だった。
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