「棗ちゃん、いつもの彼が迎えに来てるよ」


そう言って外を指差す。夜にやってるバーのバイトは22時までで、いつも悠太が迎えに来てくれる。確かに今日も店の前に立ってる後ろ姿が見えるけど、あれは違う。


「いつもの、ではないですよ」


え?と不思議そうな顔をするマスターにお疲れ様です、と挨拶してドアを開ける。


「祐希、」


声をかけると読んでた雑誌から顔を上げる。


「めずらしいね、祐希の迎えは」

「ああ うん。アニメージャ買い忘れまして」


とさっきまで読んでた雑誌を見せた。私はアニメージャのついでかい、と内心つっこみながらも一緒に歩き出す。


「…………」

「…………」


会話は、ない。私も祐希も話しかけられたら返す主義だから、お互い喋らなければ会話はないのはいつものこと。他の人だったら、これは気まずいって感じるかもしれないけど、私は祐希と一緒にいるこの空間は、居心地がいい。…祐希はどう思ってるか知らないけど。


「悠太に、棗の迎えにも行ってくればって言われた」


祐希が思い出したように言った。


「……へえ。別に気にしてないけどね」


嘘ではなかった。幼馴染みに彼女ができたくらいでへこたれてたら、この先何度へこめばいいか、分かったもんじゃない。


「悠太は優しいから」


ふと祐希が小さく呟いた。悠太が優しいのは私も知ってる。だけどその呟きが何を言おうとしてるのか、私には分からない。


「………祐希も、優しいよ」


気づいたらそう言ってた。慰めようとかそんなんじゃなく自然と出た言葉だった。祐希の視線がちらっと向くのが分かる。


「…まぁ悠太ほど、じゃないかもだけど。祐希は祐希だし。少なくとも私は今、祐希がいてくれて良かった、って思ってる」


そう続けたはいいものも、今イチ自分でも何が言いたかったのか分からない。そーですか、と答えた祐希もそれ以上は何も言わなかった。気付けばもうアパートの前まで来てて、祐希にお礼を言って、階段を上る。帰っていく祐希の背中はなんだか寂しそうだった。




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