私としたことがバイト中にもかかわらず、身が入らないのはかなり頂けない。
小さい頃から一人で過ごすことが多かった。いつも仕事の為机に向かってるお父さんの後ろ姿が印象的。それでも、「ここにいる」ことがその背中から伝わってきて、安心してた幼少時代。
そのせいか今でも人の背中で安心感を確認したり、後ろ姿が好きという風に育ったのは紛れもなく父親の影響だ。なんかムカツクから帰ってきた時には一発殴らせてもらおう。
ふと店の反対側の歩道に悠太が歩いているのを見つけた。いつも通り、だけど違うのは隣に女の子がいること。高橋さんだ。
その後ろをみんなが尾行してるのが丸見え。これじゃぁバレバレだろうなぁ、と考えてたら千鶴が手を振っているのが見えた。けど、適当にあしらう。遠くからは本当に恥ずかしいから止めてほしい。
悠太は昔からあったかい人だった。辛いとき、気付けばいつも傍にいてくれた。私はそんな悠太の背中が好きだった。恋愛感情とかじゃなく、大切なお馴染みとして、好きだった。みんなに優しい悠太は昔からモテてたし、まぁ祐希もだけど…分かってるから何かあっても今更別に、って感じ。
「棗ちゃーん、ちょっとこっちおねがーい」
店長に呼ばれて、私は業務に戻る。
安心するから人の背中が好きだった。
なのにもう一度見た、高橋さんと並んで歩く悠太の後ろ姿は、なんだか胸が苦しくなった気がした。
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