人が多くなってきた。ただでさえ歩きづらいのに、浴衣を着てるせいで上手く歩けない。

人混みは嫌いだ。
こんなに人がたくさんいるのにも関わらず、独りに感じる。たとえば、今私が消えたとしても誰一人それには気付かない、と思う。そう考えると怖くて泣きたくなる。私を追い越すたくさんの背中は、やがて私の知ってるみんなの背中をも飲み込んで、見えなくする。怖くて、怖くて。ぎゅっと目を瞑る。


「棗、」


呼ばれた名前に顔を上げると、そこには見知った顔。安心する、幼なじみ。


「…悠太」

「ダメでしょ、はぐれちゃ」


こつん、と頭を叩かれ、ごめんと謝る。今日は謝ってばっかだな、と思いながら目を開けると思った以上に悠太の顔が近くにあって、ぎょっとする。


「…どっかで休む?」


悠太は優しい。それに良く気がつく。昔から悠太には隠し事が出来ない。だけど、大丈夫、と答えてみんなの元に戻る。


「あー!ゆうたんもなっちゃんもどこに行ってたのさぁ!」


なんで千鶴ボロボロなの。それに茉咲の様子もおかしい。そしたらどうも、春から貰ったキーホルダーを落としたらしくみんなで探すことにした。が、すぐに目の前の射的の景品になってるのを発見。


「1回300円な」


「「「……………」」」


「オレ絶対こんな大人にはならない…」

「つかぜってーこんな人間にはならねえ」

「棗でもこんな金の亡者じゃないよ」

「こんなに人間腐ってません」


私は射的とか、あんまり得意じゃないからみんなに任せる。けど、的が小さい分難しい、らしい。頼みの祐希は自分の欲ばかりだし。


「あ…」

「うおぁーー!!当たったーー!!」


と見守ってたら千鶴の最後の一発が見事当たった。おめでとうオレー!と喜んでる千鶴を横目に、茉咲に良かったね、と言ったら小さく頷いた。


祭りももう終わり。はしゃぐみんなを見るのが好きで、一緒に騒ぐのが好きで、楽しくて。怖くても前を向けばいつものみんながいて、それだけで私は安心だった。




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