+1 (おまけ)


「では皆さん!グラスを持って。乾杯ー!」
「「乾杯〜!」」
「しゃけー!」
「乾杯………って何の会だ、これ」


5人で囲むホットプレートにはたこ焼きが美味しく焼き上がる。なまえ発案の元、一年最後の日に集まって、全員でたこ焼きパーティーを催していた。


「何ってそりゃあ…私の修行終了お祝い」
「自分かよ」
「それと、棘の昇級お祝い」
「明太子!」
「そして、憂太の特級返り咲きを祝して!」
「わあ、ありがとう!」
「俺と真希は?」
「二人は、え〜…と、進級祝いに」
「それ全員当てはまるじゃねぇか」


まあ、いいじゃん?と焼き上がった熱々のたこ焼きに息を吹き、冷ましながらなまえが頬張る。あ、蛸2個入ってる。これは当たりのやつ。


「だってほら…中々5人で集まれなかったし、憂太も海外行っちゃうし」
「いや、なまえがいなかっただけで私ら結構いたけどな」
「確かに。この間も焼肉行った、し…」


と、パンダが口を滑らせた瞬間、失言と言わんばかりに息を呑む音がした。


「……焼肉?」
「バッ、カ野郎!パンダそれはなまえに内緒だっつったろ!」
「誤魔化せ!頼む憂太、なんとか誤魔化してくれ!」
「えっ!?僕?」
「高菜っ」


4人が小声で話してることも、なまえには逆効果だった。焼肉、焼肉…と呪言のように唱える言葉に一斉に視線を集める。


「ふーん、そっかぁ。私がボロボロになりながら必死に修行してる間、皆で仲良く楽しく焼肉してたんだぁ」
「いや、みょうじさん違くて…!皆で、やきゅうを、やりたいなぁ…って!」

((それは苦しい……!!))


下手過ぎる言い訳に真希とパンダの声が重なった時、なまえの恨みがましい目が順番に流れる。


「へえ。そう、野球を。へえ…4人で?」
「野球、盤!そう、野球盤をやろうって、なあ真希?」
「…あぁそうそう」


もうこの苦しい言い訳の、訳の分からない野球話に乗っかるしかない、と。この時点で真希はもう素直に謝った方が得策なのではと思っていた。いつもならパンダの悪ノリに乗っかる狗巻も、なまえ絡みだとノリがそこまで着いて来てない。


「ね、棘。棘は私に嘘つかないよね?皆で私に内緒で、焼肉行ったんだよね?」


標的を狗巻一人に絞ったなまえは、ぐっ、と身を乗り出しその目を真っ直ぐに見つめる。
暫く無言を徹した狗巻も、「………………………しゃけ」と呟いた。


「はい棘堕ちたー」
「棘、弱いな!俺よりなまえを取るのか!」
「しゃけ」
「即答かよ!」
「ね、…ね、ちょっとみんな…」


憂太に止められ再びなまえを見ると、俯く顔の表情は見えない。怒りとも悲しみとも言えない感情が、ホットプレートから上がる湯気に混じった。


「私も、焼肉食べたかった」


ぼそっと呟くなまえの言葉に4人はぎくっと肩を震わせた。


「私も!皆と一緒に焼肉行きたかったぁ…!」
「待て待て!なまえ違うんだ、あれは任務の帰りに仕方なく行って…」
「また行きゃあいいじゃねぇか」
「だって、だって…もう5人で集まれるの今日で最後なのに」
「最後って、憂太別に帰って来ない訳じゃないだろ」


まさか今にも泣き出しそうな勢いのなまえに、おろおろする狗巻と乙骨の周りで真希やパンダが宥めるも、あまり効果は感じられなかった。別に高い焼肉でもなく、ごくあるチェーン店の安い焼肉屋だ。昼時もとうに過ぎ、まあ着ぐるみと称せばパンダも行けるだろとゆっくりもすることなく、ただ腹に納めただけ。なまえが羨ましがることなんて、何も無かった。ただ、重要なのは5人で行きたかった、食べたかった、それだけなのだろう。


「ねっ、じゃあさ、今から焼肉にしない?」


乙骨の提案に、なまえも顔を上げて乙骨を見る。目尻の下がった、いつもの優しい笑顔。


「ほら、ちょうどホットプレートも出してるし。とりあえず今作ってるたこ焼きだけ焼いちゃってさ。鉄板入れ替えて焼肉にしちゃおうよ」
「…いいよ、そこまでしなくて」
「いや、やるか」
「だな」
「しゃけ」


既に真希やパンダは立ち上がって、焼肉の材料があるか互いの冷蔵庫の中の確認作業に入っていた。なんか、凄い面倒くさい女みたいじゃないか、と乙骨に再び目線を送るとやっぱり優しそうな嬉しそうな顔で笑った。


「やっぱり僕達もみょうじさん入れて焼肉食べたかったし」
「ツナマヨ」
「元はと言えばパンダが漏らしたせいだしな」
「なんだよ、お前らだって罪悪感あっただろー」


そう皆の言葉に、照れたように少し俯いて笑った。とりあえず真希と部屋まで戻って、自室の冷蔵庫から余っていた玉ねぎとピーマンを抱えて戻る。今から料理の変更なんぞと思ったが、誰も文句も言わずテキパキと役割をじゃんけんで決めていく。パンダが残りのたこ焼きを焼く係、憂太と真希が焼肉用の食材切り、なまえは狗巻と共にさすがに誰も持ってなかったメインの肉の買い出しに外に出ていた。


「とりあえずカルビでしょう。あとはー、牛タンも欲しいな。ロースと、豚も欲しいかな?」
「しゃけしゃけ」


隣で歩く狗巻ですら、せっかくの夕飯を中断して外に出ることに関して嫌な顔一つしない。なんか私、同級生に甘えてばかりだな、と心が咎めてならなかった。


「ごめんね。せっかくのたこパも、台無しにしちゃって…」


小さく呟くなまえに狗巻は一瞬だけ、ぎゅっと手を握ってすぐ離した。多分、誰かに見られることを危惧しての行動だったのだろう。驚いて狗巻を見上げると、「おかか!」とピースサインを添えて笑った。まだ何も言えずにいるなまえに、今度はダブルピースで答える。そこで吹き出したようにようやくなまえも笑った。


「ありがとう」


きっと、誰も台無しなんて思ってないんだろう。今こうして焼肉の準備をしてることすら、楽しいのだから。まだまだ夜はこれから。またお腹も空いてきた。夜は、当分更けそうにない。




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