07.


決死の覚悟、死に物狂い、死して尚…
"死"を代償に向かってくるその目に、向き合うのが怖かった。


最終課題。
[ 神風を防ぐ ]


烏に自死を強制させる対価として、呪力制限を消し去る。命を懸けた"縛り"。それを防ぐことが出来たのは、五条悟以外いない。それを、自分が防ぐ?無理無理無理無理、絶対無理と心の中で十回は唱えた。


グシャッと潰れる音がするのは、なまえの結界の方だった。冥冥から知らされた最後の課題。残りの2月の日を、どうしたら防げるか、考えに考えた。貰った簪を使用した結界は、普通の呪霊なら難なく防げるし、祓えるようにもなっただろう。使い方も色々試した。呪符を数枚突き刺し、幾重にも重ね高強度にした結界。応用としてさらに形を変え、巨大な毬型にした結界は殺傷度も上がった。
それでも、冥冥の烏は防げない。余りにも簡単に破られる、まるで豆腐のように。
結界を破り、真っ直ぐなまえに向かってくる烏は、直前でなまえの加護によって妨げられた。それでも掠める命懸けの特攻は身体にダメージを与える。もう、こうして地面に這うのは何度目か。


「本当面白いね、その加護の力は。どんな理屈があるんだろう」


這った地面の横には生き絶えた烏も横たわる。あぁまた、死なせてしまった。毎回受けているようでは烏は何匹いても足りないだろう、と日の終わりに一回だけ冥冥の"神風"を受ける。早く、防ぎたかった。これ以上烏が死ななくてもいいように。しかしその願いは、今日も叶わなかった。


「ありがとう、……ございました…」
「うん。じゃあ、また来週かな」
「最近、スパン早いですね」
「ちょっと高専に用事があるんでね。ついでだよ」
「どっちが、"ついで"ですか?」
「勿論、用事がついでだよ」


口を閉じクスクス笑う冥冥は、実は人誑しなのではないかとなまえは思っていた。憂憂が実の姉に対してトキメキを覚えるのも分かる気がする。


「なまえだったら今何が買いだと思う」


あ、今度はお金の話になったな。いつも唐突だ。だからこそ、常に最新の情報を仕入れなければならないし、答えるようにしなければいけない。


「今なら…不動産とか」
「リートか」
「インフレに強いですし。2020年には五輪もあるから、東京の土地の価格も上がると思うんですよ、ホテルの建設とか」
「なるほどね」
「ただ外債や国債である程度分散投資した方がいいかな、とは思います」
「なまえは信託派か」
「いや…短期で利益取るならやっぱり株がいいとは思うんですけど。学生の私がずっとパソコンに齧り付くのは無理です」
「フフ、確かにね」


その間ずっとスマホを見ていた冥冥が、目を離したその顔はなんだか満足そうだった。これは、良い売買が出来た顔だ。


「さあ、今日の仕事は終わり。憂憂、帰るよ」
「はい!姉様」


こっちも、宜しく頼むよ。と叩かれた肩は、ぽんと軽く触れたとは思えないほど痛みが走る。烏の"神風"を受けた傷はなまえの加護や治癒力を持ってしても、数日は消えない。服の下は痣だらけで、お風呂入ろうとして鏡に映った自分の姿に驚愕した。
そしてその日の夕飯、食べようと思った唐揚げが一口も喉を通らなかった。鶏肉を見ると、どうしても修行中の烏を思い出してしまう。なまえは冥冥から力を授けて貰うことを代償に、好物を一つ失った。




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