06.


課題クリアの条件は、放たれる烏50匹を連続で間違えずにタグ通りの結界を張ること。


「赤い、四角っ」
「三角じゃないかな」
「もう騙されません!」


と何度目かの冥冥の声をスルーしようとした一瞬、四角だと思われた印が本当に三角なことに気付いた。烏のスピードに大分目は慣れてきたが、所々入ってくる冥冥と憂憂の茶々に意識が持っていかれる。嘘か本当かも分からないから、タチが悪い。
なまえは矩形に具現化しようとした結界の形を、無理矢理変えることを試みる。これが50匹目、これでこの課題は終わりなのだ。こんな悔しい失敗で最後を終われない。ボコボコ波打つ結界は、遂に硬い円錐の突起に覆われて烏を囲った。膝に手をついて肩で息をする。


「赤い三角です」


憂憂がタグを確認して読み上げた。2月は短い、だがらこそ早めに決着を付けたかったが、それでもギリギリの残り一週間のことだった。


「強度も、なかなか良い感じになってきたね」
「はぁ…はぁ、ありがとう、ございます」
「ところでなまえ、」
「今日の市場はまだ閉まってないですよ」
「まだ姉様が喋ってるのに!」
「あ、ごめんなさい」
「いいよ憂憂。まあそれもあるけど、君、呪具は使用しないんだね」
「呪具……」


千家の特級呪具のようなことを言っているのだろうか。確かになまえがいつも呪符に文字を書くのに使っている筆には呪力が篭っているが、その場で書くと術式が暴露てしまう。本当なら、書いてすぐの文字の方が強い結界が張れる。ただ、二度言うが術式が暴露る為、予め呪符に書いた文字を持ち歩くしかない。なまえは憂憂の側に立て掛けてある、冥冥が使用している大斧に目を向ける。


「見ての通り、タッパがないので。師匠みたいな近接用の呪具を持つには邪魔になります。憂くんのように側で持ってくれる人もいないので…」
「呪具は、別に呪霊を祓う為だけに使うものじゃない。物に呪力を込めることで、今までのモノをさらに強くすることも出来る」


冥冥は何かを取り出しなまえに差し出した。「あげる」の一言に受け取ったそれは硝子で出来た簪だった。ただ形状は先に向かって渦状に尖っている、まるでペン先のように。呪具っぽくないそれをまじまじと眺めていると、一点に目が止まる。背に、六角形の印が彫ってある。略式ではあるが、それは亀の甲羅を象った千家の神紋だった。


「これ…!どうして師匠が…?」
「五条君から預かったんだよ。時期見て渡して欲しいと」


頭に浮かぶ五条の姿はインチキ臭かった。特級呪具だけでなく、まだ隠していたのか。


「呪具、ではないですよね」
「そうだね。でも試しにそれに呪力を込めて、君の呪符に突き刺してごらん」


冥冥に言われた通り、取り出した札にいつも通り呪力を込める際に、簪を通して呪力を送り込むように突き刺す。一点に絞られて送られた呪力は、バチバチと呪符に跳ねた。


「う、っわ…」


まさに今、書かれた文字から成された結界の如く、比にならないほどの強い結界が現れた。


「呪具ではないが、やはり千家の者が扱うとその威力は計り知れないね。これをどう扱うかはなまえ次第だけど」
「でもこれ…どうして今くれたんですか?まだ全部の課題を達成した訳じゃないのに」
「フフッ…置き土産だよ。十億の呪具貰うのは申し訳がないからね」
「いやいや、"降龍"も渡しませんて」
「それは、最後の課題を聞いてからにして貰おうか」


そう冥冥が耳元に近付く顔に、同性ながらドキドキした。女性としての強さと美しさ、その薄い唇から漏れる声に「え?」と思わず聞き返した。


「じゃあ、3月も楽しみにしているよ」


魔女のように、と言ったら憂憂に怒られるだろうが例えるならそんな微笑みを浮かべて冥冥は背を向けた。
なまえは手元に残された簪に目を落とす。千家大社の神紋、六角形を二重枠にした"亀甲紋"の中に"剣花菱"を入れたもの。亀甲紋は"呪記"の呪印でもある。身から生み出す文字に呪いが篭る、なまえの両肩にもこの亀甲紋の呪印が刻まれている。それと同じ紋様の簪。一体、誰の物だったのだろう。おそらく五条に聞いても教えてはくれない。知らないのかも分からない。
例えこれを持ったとしても、最後の課題は無理かもしれない。まだ耳元で冥冥の声が残っていた。




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