05.


「…青の丸!」
「今のは、四角じゃないかな?」
「えっ?!」


通り過ぎた烏を確認する。脚に付けられた青色タグには、◯印が書かれていた。


「もうっ丸で合ってるじゃないですかー!」
「フフ、本当だね」
「絶対分かってた!」


第二の課題。
[ 結界の質を変える ]


冥冥から放たれる烏の脚にはそれぞれ異なるタグが付けられている。色は青と赤。青は軟化、赤は硬化した結界を示す。また、色タグには◯、△、□のマークも書かれており、マークに応じて同時に結界の形状をも変える。青色の◯だったら、軟化した丸形の結界を発動させる、というように。瞬時に烏のタグを見抜く瞬発力と動体視力、それに適応した呪力の制御を訓練とした修行だった。これがまた、第一の課題が身体的疲労だったのに対し、今回は集中力による精神的疲労が物凄い。寮には帰って寝るだけになっていた。


「今月はどんな課題なの?」


久々に教室に同級生全員が揃った。乙骨の質問になまえは懐から札を取り出し、いつものように結界を現した。ただ、現れた結界はいつもの矩形ではなく、丸いしゃぼん玉のようなもの。


「わっ、凄い!なんかぶよぶよしてる」
「今やってるのはコレ」
「ぶよぶよ作るのか」
「すじこ」
「違うよ、何ぶよぶよって。結界の質を変えるの」


ぐっ、と呪力を込めれば、それはいつもの立方体の形に変え硬化された。


「「おおー」」
「こんな簡単に変えれるものなのか」
「いやいや、もうめっ……ちゃ呪力制御必要なんだよ!大変なんだよこれ!」


なまえの言葉の溜め方が大変さを表す。元々同級生一抜群のコントロールがあるなまえがそこまで言うのだから、本当に大変なのだろうと思った。


「なんかコツがあるのか?」
「コツと言うか…イメージ?さっきのぶよぶよなら、水風船をこうイメージしてぐっ、と」
「これも何かイメージしてるの?」
「四角いのは普段も使ってたから。ただ、柔らかいのだとなんか…絹豆腐みたいな」
「いくらー」


先程形を変えた柔柔した結界を、狗巻が何やら楽しそうに指先で突いている。


「じゃあ四角い硬いのは…」
「高野豆腐」
「…腹減ってるのか?」
「イメージ!イメージだってば」
「ねえみょうじさん、他にも形あるの?」
「あるよ。あ、棘危ないから指退けて」
「おかか〜」


残念そうに離した狗巻の指先の結界が、今度は円錐の針状に覆われた形に姿を変えた。冥冥との修行の中ではこれが△に当たる。


「あ、痛くない」
「今軟化のイメージで作ったから」
「で、これは何のイメージなんだ」
「棘の髪の毛。ツンツンしてるけど、なんか柔らかい感じ」


なまえのさらっとした答えに同級生全員が一瞬、固まった。無意識なのだろうか、本人は何にも感じてなさそうな涼しい顔をしている。パンダは口に手を当て、隣では何故だか乙骨の方が顔を赤くしている。狗巻もくいっとネックウォーマーを上に上げた。


「オマエ……恥ずかしくねぇの」


耐えきれず真希が口を挟んだ。その言葉にきょとんとしたなまえも周りの反応と、自分の発言を振り返って思わず顔を手で覆った。


「恥ずかしい……。もう、忘れてください…」
「きゃー!なまえ、これ棘のイメージらしいぞー」
「やめてパンダ、やめて。殴るよ」


完全に揶揄いにきたパンダにそう言うも、羞恥心からか力が入らない。パンダがさわさわ触るその針状の結界が急に破廉恥に思えて来て、軟化したものを硬化へと変化させる。


「ちょっと待て!なまえ刺さってる、刺さってる!」
「あ、ごめん」


さくっと抜いた今度は硬化された刺々しい結界。


「なんか…栗みたいだな」
「え〜海栗って感じじゃない?」
「こんぶ」
「海栗に二票だって」
「で、これのイメージの正解は」
「尿管結石」
「尿管、」
「結石……」


なんでこれだけそんな生々しいイメージなんだよ、とは言わないでおいた。さっきの同じ形の柔らかいイメージは狗巻だったのに、この落差はなんなのだ。また別のなんとも言えない空気が5人に流れる。パンダが結界と狗巻を見比べ、そして狗巻の肩に手を置いた。


「なまえ、酷いじゃないか。棘を尿管結石に例えるなんて」
「言ってない!!そんなこと言ってないでしょう!?」
「おかか…」
「ほら、落ち込んでるじゃないか」
「嘘!棘ちょっと笑ってるもん!」


乙骨も耐えきれず肩を震わせながら笑っている。ツボにハマってしまったみたいだ。真希はそんな光景に小さく息をつく。


「なんで尿管結石なんだよ」
「この間硝子さんところ行ったら、ちょうど手術した後だったみたいで。立派なもん取れたって見せてくれたの……ってもうー!笑い過ぎだから!」


男3人揶揄するように声に出して笑う。真希も口角を上げて釣られて笑った。なんだか恥ずかしくなってきた。


「馬鹿にしてるけどこれ、結構痛いんだからね。呪霊に打つけるだけで気持ちいいくらい祓えるようになったんだから!」
「分かった分かった、必殺尿管結石爆弾だもんな」
「変な命名やめてっ!」


暦は既に如月。まだ寒さが残っていて、衣を重ね着することから衣更着とも書くこの季節。でも、5人の笑いが溢れるこの教室だけは、なんだか温度が高いようにぽかぽかしている気がした。




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