03.


なまえが冥冥の修行を受けている中、他の同級生もそれぞれ新たな年を迎えていた。狗巻は噂通り一級術師への推薦を受け、同行による任務に出掛けることが多くなった。さらに乙骨に至っては、"里香"の解呪により監視の目も解かれた。が、それにより術師の階級も特級から四級へ降格することになった。真希が一番楽しそうに、嬉しそうにして乙骨のことを揶揄っていたのもつい最近の話。


「お前、さっきから何見てんの」
「んー、株価」


真希はスマホを凝視するなまえに声を掛けた。が、その答えは今まで彼女の口から発せられたことのない単語だった。


「…株?」
「そう。冥さんから色々教えて貰ってるんだけどさ。まーなかなか難しいんだよね」
「いや、お前…なんの修行してんの」
「いや、本当だよね」


うーん、と考え込んで机に伸ばした手からスマホを置いた。溜息が漏れる。


「で、修行の方はどうなんだ」
「まあ、……見通しはついてない」


制服から覗く白い腕には真新しいものや、治りかけた傷が幾つもあった。既になまえは、あれから2回の挑戦も失敗に終えている。"白い烏"を見かけることが出来たのは3回のみ。ただ、素早い上に近付こうとしても他の烏に邪魔をされ、捕まえるどころか掠りもしない。なんの手応えもないまま、明日には1月も最終日を迎える。それでクリア出来なければそれで修行も終了だ。
課題はそれだけではない。なまえは今まで生活サイクルに入っていなかったことが増えた。朝一には日経新聞を読み込み、日本だけでなく世界情勢なども頭に入れることが習慣になっていた。それも全ては冥冥による、「お金を稼ぐ」という術を身に付ける為。仮に3ヶ月を終えたとしてもその先には三千万を返さなければならないのだ。返済する為の金を稼ぎ方を教えることもまた、修行の中の一部だった。


「そういえば、憂太はどう?」
「あー、まあ四級になったしな。今はパンダと実習でもしてんじゃねぇか」
「真希、嬉しそうだね」
「アイツの学生証見たか?ちゃんと四級になってんだよ、傑作だろ」


そう見せられた真希のスマホの画面には、わざわざ四級となった乙骨の学生証の写真が映っていた。


「真希、憂太のこと大好きじゃん」
「ハァ?何言ってんだ、オマエ」
「そんな本気で嫌がらなくても…」


心底、というくらい眉間に皺を寄せた真希にくすくす笑う。


「なまえこそ、最近棘に会ってねぇんじゃねぇの」
「あぁ、うん。なんか行き違いなんだよね。でもこの間任務に行く途中の棘に会ったよ」


その時は、本当に一瞬会っただけだった。狗巻も同行術師と一緒だったし、一言二言会話を交わしたのみ。まあ同級生の関係ならそんなもんだろ、くらいの時間だった。それ以上は求めていないのだから、しょうがない。


「棘も心配してたぞ」
「えー、それは真希も心配してくれてたってこと?」


はぐらかすなよ、と頭を拳で小突かれた。分かっている。分かってはいるけど、なまえだって狗巻のことは心配だった。一級へと推薦された後の任務は、当然危険度は上がる。勿論祓うことに関して狗巻の力は十分だが、本人への反動が心配だ。また、無理してないだろうか。


「明日で1月も終わりだろ。まあ、頑張れよ」
「うん、ありがとう。根拠はないけど、上手く行くと思う。なんか私、呪力の量が増えた気がするんだよね」
「そんなん分かるのか」
「なんとなく。沢山、泣いたからかなぁ」
「泣いた?誰が」
「私が」
「いつ」
「帰省した時」
「マジか」
「マジ。もうぎゃん泣き。自分でも引くくらい。でも、それくらい感情を表に出すって大事だったんだなぁ、って」


溢れた想いの一部は、負の感情となって呪力に還元される。それも、狗巻のお陰だ。だからこそなんとしても、この修行の成果をモノにしなくては。
教室の窓から見える空には、数羽の烏が飛んでいる。もう冥冥は高専に来ているのかも知れないと思った。
明日で、最後の機会だ。




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