01.


睦月。
新年とともに冬休みが明け、澄み切った高専の空にはその青空には似つかわしい、数百羽の烏達が点々と黒を落とす。下手に近付くと襲われる。爪や嘴が所狭しと襲ってくる。気を抜くと抉られるくらい、凄く痛い。多少の息切れをしながらも、なまえは烏を追い駆け出した。


***


「君か、千家の生き残りは」
「今は、みょうじです。みょうじなまえです。この度は、修行を受けて頂いて、ありがとうございます」


丁寧にお辞儀をする先には、見下ろす冥冥の姿。隣には彼女の弟である憂憂も一緒だ。彼は訝しげな表情でなまえを見ている。まだ信用するに至ってないのだろう。
なまえの生家のことは秘匿扱いだが、今回に限っては話さざるを得ない。簡単な説明は五条が既に話を通してくれていた。冥冥は金以外のしがらみには興味がないらしい。言わなくても漏らしはしないだろうが、五条が口止めにいくらか支払ったのは薄々感じていた。


「千家の術式、"呪記"はそれだけで強いはずだろう?私の教示なんていらないと思うけどね」
「私は…結界の文字しか書けないんです。守ることしか出来ない。でも私は呪術師だから、呪いを祓わないと。お願いします。結界術しか使えない私でも、強くなりたいんです」


そう、再度お辞儀をする。
"呪記"は確かに強い術式だ。しかしそれは全ての文字を書くことが出来ればの話。なまえが使えるのは結界術と、多少なりの封印術のみ。しかも書く文字を変えてしまうと、感の鋭い相手にはその術式を知られてしまう可能性がある。なかなかどうして難儀な問題だった。だからこそ、術式を強化する為に冥冥に教わりたかった。彼女の術式"黒鳥操術"、烏を操るそれだけだと自他共に言う。それと向き合い一級術師となった人に教示を受けたいと思ったのだ。


「其れ程までに、強くなりたい理由は?」


考えるよう腕組みをして立つ冥冥を、なまえは真っ直ぐその目を見つめる。何故、理由は一つしかないが、一瞬の迷いがあった。しかし、それを誤魔化せば自分に嘘を吐くことになる。


「…好きな人がいます。好きな人には、好きと伝え続けたい。だから、私は…強くなりたい」


なまえの意外な答えに、冥冥は声を上げて笑った。そういう姿は珍しいのだろう、憂憂も驚いたように隣の姉を見上げた。


「姉様……?」
「いやぁ面白いね。これで下手に"人助け"が理由だったら、この修行は断ろうかと思ったよ」
「え?」
「情けは人の為ならず、そんな不確かな根拠は嫌いだ。私は金に換えられないモノに価値はないし、興味はない。なまえ、金に換えられないモノには何があると思う?」
「………命」
「いいね。でも、愛もその一つだ。私は些か興味はないけどね。金で換えられる愛はホンモノじゃないんだろうね。君のその相手も術師なんだろう」
「はい」
「しかし、愛もまた"呪い"なんだよ」


以前、似たようなことを五条も言っていた。嫌でも知っている、彼の発する言葉は全てが呪いになってしまうのだから。愛を伝える言葉だけじゃなく、意味ある言葉の全てが。


「分かってます。それでも、私は愛を呪いではなく、愛として伝えたい」


大好きな、どこまでも優しい彼の分まで。なまえの決意した目に、口角を上げて笑った。とても、綺麗な笑みだった。


「姉様、そうしたら僕達の愛も呪いなんですか…?」
「ああ、憂憂。私達は違うよ、私は強いからね。オマエに対する愛は本物だよ」
「まっ!!姉様ったら」


目の前で繰り広げられる光景に呆気に取られるなまえも、そのうち慣れることになる。


「いいよ、改めて君の修行を受けよう。十億も貰ったことだしね」
「いえ、あれは…渡しません。私は、貴女から十億もの価値があるその力の資産価値を、三千万で買い取ります」


なまえは拳を強く握り締めた。




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