04.


ゴールデンウィークが明けると、人間五月病というのが流行るらしい。少しずつ、陰気な空気が漂い始める。

関東近郊に位置する"上久保ダム"
直近で少なくとも2人ほど、この近くで行方不明になっている。呪霊の仕業、ともまだ言い切れないが、若干の残穢の痕跡があり派遣されたのは伏黒恵と、サポート同行で付き添いで来たのはみょうじなまえだ。


「へえー、明さん弟さんいたんですか」
「そうっス。今年京都校の一年ス」
「じゃあ伏黒君と同い年だね。え、どうして京都行かなかったんですか?」
「拒否られたっス。最近ウゼェとか言われるし、反抗期っス」
「え〜あはは、仲良いんですね、いいなぁ」


これから呪霊退治するとは思えない空気が車内に流れる。なまえは人見知り、ということを知らないらしい。伏黒は人見知りというほどではないが、人に対してそこまで会話を進んでしようとは思わない。なので、なまえが相手に対し興味を持ち続ける姿勢が、自分とは正反対だ。


「伏黒君は?兄弟いるの?」
「……………姉貴がいます」
「そうなんだ、じゃあ姉弟構成も明さんと同じですね」
「そっスねー」


そして会話の引き際も絶妙だ。これ以上は踏み込んではいけないな、という所で会話を切り上げる。察しがいいのか、センスか。色んな人と好き嫌いせず関わっているからこそ成せる業なのか、伏黒は未だにみょうじなまえという人間を掴み損ねていた。


「みょうじ先輩は、いるんですか?」
「妹がいたっぽいんだけど、小さい頃亡くなっちゃったからあんまり覚えてないんだよね〜」
「…そうなんですか」


いきなり地雷を踏んでしまった。これがあまり他人と会話をしたくない理由かもしれない。なまえは伏黒の聞いたことなぞさも気にしてないように、補助監督である新田明と他愛もない会話を続けているのを横で聞いている。


「着いたっス。暫くお二人はここで待機っス」


降り立ったのは現場であるダムの入口だった。防犯カメラの情報によると、ここを歩いている人が急に消えるという現象らしい。ただ、通る人全てではない。どうしてだか選んで人を攫っているように見える。


「みょうじサン、申し訳ないんスけどちょっと外してもいいスか?呪霊確認出来たら"帳"下ろして貰って始めちゃって大丈夫スから」
「了解っす!」


あ、話し方移っちゃった。と照れ笑いながらなまえが言う。新田はまた別の任務の補助があるらしい。今や補助監督も繁忙期になると掛け持つことが多くなる。「すぐ戻るんで!」と新田はまた車に乗り込んで走り去って行った。
今この場で呪霊の気配はしない。伏黒は手で印を組み、影を作る。


「玉犬」


影から現れたのは伏黒の式神の一種である、玉犬「白」。索敵に長けた伏黒の相棒だ。

禪院家相伝 "十種影法術"
影を媒介とした十種の式神術。
それを初めて目の当たりにしたなまえは、目を輝かせて玉犬に近寄る。


「わーい犬だー!」
「式神です。どこに呪霊がいるか分からないんで、探ってきてもらいます」


伏黒の指示で玉犬も駆け出した。
薄暗いダムは、気配はしないが不気味な雰囲気だ。貯められた水はまるで、底がなく全てを飲み込むブラックホールの如く見下ろした先に広がっていた。





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