37.



京都姉妹校交流会
一日目 団体戦
"チキチキ呪霊討伐猛レース"!!

簡単に言えばどちらが呪霊を討伐出来るか、というだけのシンプルなルールだ。お互いの手の内すら、幾ら同じ術師だとしても見せるも見せないも自由。その辺も含めて開始時刻の正午まで作戦会議の最中。

ーーー東京校サイドミーティング


「あのぉ〜これは…見方によってはとてもハードなイジメなのでは…」
「うるせぇ。しばらくそうしてろ」


何処かしょぼくれたように小さくなった虎杖は、黒い額縁を顔にはめるように待たされていた。縁起でもない…と思いたいところではあるが、虎杖も虎杖で本気で心配し泣いてくれたであろう仲間を茶化したのだからこの仕打ちも止むを得ない。例え五条に唆されたとしても、肩は持てない。それに、なまえも共犯みたいなものだ、口を挟むのは許されない気がした。
事情自体は、虎杖の死という事実の重さとは全く比にならないくらいの軽い口調で五条が説明をした。余りにも端折り過ぎて、合間合間でなまえが補足説明を強いられたくらいだ。


「まぁまぁ。事情は説明されたろ。許してやれって」


虎杖の右に座っていたパンダに、「喋った!!」と驚く左側で狗巻がおにぎり語を話すものだから、虎杖の表情はコロコロ変わる。しかしそこは虎杖、順応性の高さは随一だ。狗巻の"呪言"の説明を伏黒から受けてすんなり受け入れていた。


「ーー語彙絞るのは棘自身を守るためでもあんのさ」
「ふーん。で、先輩は何で喋れんの?」


と口をついてすぐ、虎杖からあれ?と疑問の声が漏れた。


「先輩の下の名前、棘って言うの?」
「?しゃけ」
「確かに狗巻棘だが…なんだ知ってるのか?」
「あっいやいや、へぇーそっかぁ!」


何やら目に光を灯してキラキラさせながら一人納得している虎杖が、なまえに向かって親指を立てた。"俺分かったよ!"と訴えてくる眼差し。いい、そんなこといちいちアピールしなくていい。
と、同時に狗巻もあることに気付く。虎杖の座っている姿、体格、雰囲気。間違いない。あの夏の夜、なまえと一緒に祭りに行っていたのは虎杖だと。


「おかか!」
「えっ!?何!」
「おかかっおかかっ!」
「どうした棘」
「何?何て言ってんの!?伏黒!」
「……"おかか"は否定の意味だ。虎杖、狗巻先輩に何かしたのか?」
「えっいや!今日初めましてだし!」


虎杖を指差しながら"おかか"を繰り返す狗巻になまえも首を傾げる。虎杖は伏黒と釘崎に聞いているようだが、良く分かってない様子。
同じく不思議に思ってた真希とパンダが狗巻と何やら耳打ちをしていると思ったら、聞いた2人はああ〜と納得したようになまえを見た。


「なるほどな」
「えっ、何?」
「虎杖が、」
「なまえの」
「「浮気相手……」」
「しゃけ…」
「なんて?!」


何故か小声で聞こえたその単語。驚愕して目を丸くする。


「祭りで一緒だったろ、虎杖と」
「あっ。あぁ〜…」


真希に言われて、腑に落ちた。何か可笑しいとは思ってたんだ。あの時、見られたのは。見たのは、パンダではなく狗巻だったのだ。


「ちがっ。浮気て、そんな」
「いや、まあ大体把握した。な、棘?」
「……………しゃけ」
「随分と納得いってないしゃけだね…」


狗巻からは絞り出したような肯定が零れた。隠された襟の下は尖らせた口をしているに違いない。


「…んなことより、」


この状況に、"そんなこと"と流せる真希はさすがだと思った。振ってきたのはそっちなのに。それでも今は交流会のミーティングの真っ最中。なまえは肩を竦ませながらも話の展開を戻すことに同意した。それに丁度、真希が虎杖に対して投げかけた呪具の行方の話にもケリがついたようだ。


「で、どうするよ。団体戦形式はまぁ予想通りとして。メンバーが増えちまった」
「増えたって言っても、結局変わらないよ?私今年出ないもん」
「は??」
「え?」


あっけらかんと言いのけたなまえに全員が声を上げた。


「出ないってなんだよ!!」
「おかか!」
「えー!なまえさん何でですか!?」
「何でそんな大事なこと今言うんだよ」
「言ってなかったっけ?」
「おかか」
「え〜それはごめん」
「まさかオマエ…去年のこと根に持ってんな?」
「え?」


一斉に発せられる避難と、甦る昨年の記憶。乙骨と共に駆り出されることになってしまい、東堂に吹っ飛ばされた忌々しい記憶。そういえば「来年は出ないからね」と突っ伏した机の硬さまで思い出した。しかしいやいや、と首を振る。


「確かに出ないって言ったけどね?そんな大人気ないことしないよ」
「じゃあ何でだよ」
「人数合わせだって。だってこっち有利になっちゃうじゃん。勝って後で難癖付けられても嫌でしょ?」
「まあ…それもそうだなぁ」


パンダは野生に戻ったかのように(そもそも野生だった時があるのか?)柱に抱きつきながら回っている。飽きたのか、早く結論を出したいのかも知れない。二年で会話を繰り広げていたが、何処か焦った様子で割り込んできたのは虎杖だ。


「ね、みょうじ先輩が出れなくなったのって、俺が復帰したせい?いいよ、俺出なくても」
「何言ってんの。虎杖君の復帰戦なのに。いいんだよ、気にしなくて。さっき言ったけど私去年出てるし」


と言いつつも、なまえ自身もこの半年で力をつけてきた訳だしそれが披露出来る場は減るが、それはそれ。チームで勝てれば問題なし。と、残り少ない時間を作戦に当てる為にこの話題を切り上げた。


「とりあえず悠二次第だな。何ができるんだ?」
「殴る蹴る」
「そういうの間に合ってんだよなぁ…」
「……なまえは?虎杖と何してたんだ」
「主に、呪力制御を」
「は?」


なまえの言葉に反応したのは伏黒だった。え、と顔を見ると思わず声をあげてしまったような気まずそうにしている伏黒と目が合った。いや…と頬を掻く。


「みょうじ先輩…俺にはそんなこと教えてくれなかったじゃないですか」


瞬きを三度する。思わず声を手で抑えてんん、と誤魔化すように咳をした。不貞腐れたように目を逸らす伏黒を思わず可愛いと言いそうになった。便乗して同じく羨ましそうに虎杖をど突く釘崎の二人を、何やらにやにや見守る同級生。可愛いよね、分かる。私達の後輩、すごくかわいい。


「…んっ、まあとにかく!伏黒君達は教えなくてもいいくらい優秀だったし。とりあえず作戦はそのままでいいと思う」
「虎杖はどうする」
「……まあ…東京校・京都校。全員"呪力なし"で闘り合ったら、」


虎杖が勝ちます。
そう断言する伏黒の目は力強かった。お世辞なぞ決して言わない伏黒は、虎杖の実力を知らない二年に伝えるのにそれ以外の言葉はいらなかった。あの鋼の肉体を持つ東堂より、天与呪縛がある真希よりも虎杖が上だと言い切れる。それは短くも虎杖と共に歩んだ時間がそう思わせるのだと、確かに表れていた。




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