36.


「野薔薇ー?もう行くよー?」


天気は快晴。気分上々。絶好の交流会日和だ。
本日、京都姉妹校交流会初日。なまえは部屋に居るであろう野薔薇に向かって声を掛ける。広くもない部屋の中を何走っているんだろう。そのくらい騒がしい音が扉の奥で聞こえている。


「ちょっ…。すぐ!すぐ降りるんで!先行っててくださーい!」
「?分かったー。じゃあ先降りてるね」


慌てたように聞こえた声にとりあえず返事するものの、隣に一緒に居た真希を見ては共に首を傾げた。


「アイツ、何をあんなバタついてんだ?」
「さあ?」


背を向け歩き始める廊下からまた釘崎の叫びが聞こえて、歩く歩幅を半歩止める。しかし真希は気にせず進んでいくので止め続けることは出来なかった。すぐに真希の隣に着く。外の気持ちがいい、空高く澄んだ空気を思い切り吸い込んだ。


「真希ー、なまえー」
「応」
「…おはようございます」
「おはよう、皆早かったね」
「こんぶ」


外には既に男性陣が待っていた。さて、何故こうして全員で集まっているのだろう。これではまるで京都校の学生を歓迎とばかりにお出迎えしているみたいではないか、とは誰も口にしなかった。多分、誰も気付いていなかった。


「あり?野薔薇は」
「あ、なんかね先行っててって。なんかバタバタしてた」
「何を準備する必要があるんですか」
「何だろうね」


と伏黒に言い終えるかというタイミングでちょうど釘崎が来たようでなまえも振り返る。が、何故かキャリーバッグを持って現れた釘崎に全員の目はそっちに釘付けになった。逆に釘崎の方も此方側を見てはポカンと口を開けている。


「なんで皆手ぶらなのー!?」
「オマエこそなんだその荷物は」
「何って…これから京都でしょ?」


ポカンとするのは釘崎だけではない。なまえ達の頭の上にもクエスチョンマークが浮かぶ。何かもしや、釘崎は勘違いをしているのかもしれない。パンダが擦り合わせるように釘崎に詰め寄った。


「だって、京都 "で" 姉妹校交流会…」
「京都 "の" 姉妹校 "と" 交流会だ。東京で」
「ハァ〜?!嘘でしょぉ〜!!」


みるみる崩れ落ちて行く釘崎。思い返せば最近やたら抹茶スイーツについて話してくると思った。釘崎は洋菓子派じゃなかったっけ、ってその時点で誤解を解いてあげれば良かったという既に遅い後悔。さらにはこの場にはいない、ましては会ったこともない乙骨への雑言まで聞こえてくる始末だ。


「憂太だけじゃないぞ。去年はなまえも一緒に行ったんだからな」
「しゃけしゃけ」
「そんな…なまえさん、どうして……」


どうしてそんな…とこの世の終わりのような顔で足元に這いつくばって来た釘崎に、さすがに苦笑いを向けて背中を摩る。


「ご、ごめんね。京都はまた一緒に行こう?」
「野薔薇〜、膝汚れるぞ」
「ね、ほら野薔薇立って立って」
「おい、」


釘崎の両手を掴んで万歳と手を挙げた時。真希の「来たぞ」の声と視線の先に向けると丁度石階段を昇り切った京都陣がお目見えした。あ、と目が合った三輪に手を振ると向こうも小さく片手を上げて振ってくれた。
しかし何やら京都側も言い合っているご様子。まぁまぁ、と宥める三輪を見て彼女の京都校での立ち位置が一目瞭然だ。


「はーい、内輪で喧嘩しない。まったくこの子らは」


そう姿を現したのは京都校教員の庵歌姫だ。学生時代では家入らの先輩にあたる。今でも家入と歌姫は旧知の仲で、隙あれば一緒に飲みに行くほどだ。


「…で?あの馬鹿は?」
「悟は遅刻だ」
「バカが時間通りに来るわけねーだろ」
「誰もバカが五条先生のこととは言ってませんよ」
「でも皆馬鹿=悟って分かっちゃったけどね」


歌姫は本当に五条のことが嫌いらしい。最初の内は好き避けかな、と思っていたこともあったが家入と飲みながらしている会話の節々と、なまえが一度聞いてみた時の思い切り苦虫を噛み潰したような顔で全てを理解した。これは本当に、本当に嫌いな人を語る顔だと。気持ちは分からなくない時もある。なんと言うか、五条はそう。所謂デリカシーがないのだ。


「おまたー!!」


まさに今の登場の仕方とか。
空気を読んだのか読まないのか、渦中の五条は人一人入るくらいの大きな箱を引いて姿を見せた。良く分からないピンクの人形を京都の学生陣に配っている。


「凄い…マイウェイ過ぎる」
「いつものことだろ」
「高菜」


冷たい視線を浴びているのも知らず、勢い良くぐりん、とこちらを向いた五条。


「そして東京都の皆にはコチラ!!」
「ハイテンションな大人って不気味ね」


釘崎が苦言を漏らした時。なまえはもっと早くに気付くべきだった。五条が持ってきた、"人一人入れそうな箱"と、今日が虎杖の復帰戦だということ。そしてそう、五条は、デリカシーがない。


「故人の虎杖悠二君でぇーっす!!」
「はい!!おっぱっぴー!!」


こんなにも、一度に凍えることの出来る空気を未だ味わったことがなかった。もう少し、マシなプランナーは居なかったのだろうか。いや…居ないか。七海は首を突っ込むことはしないだろうしと考えて、思わず頭を抱える。


「あれが、虎杖?」
「つーか、死んだんじゃねぇの?」
「いくら」
「生き返ったのか」


初めましての二年の反応はまずまず。というか困惑と言ったところだろう。問題は同じ一年の伏黒と釘崎だ。特に釘崎は驚きより、怒りが勝ったようだ。無情にも虎杖は釘崎に詰め寄られて怯んでしまっている。それを遠目に見ていたが、バチっと視線がかち合うと助け舟を求めるように名前を呼んだ。


「あっ!みょうじ先輩ー!」
「わぁ〜…」


そんな大きな声で…と、とりあえず虎杖に向かって手を振るが、虎杖に向けられていた視線が自分に集まっているのを知りながらも必死に見知らぬ振りをする。


「なまえ……」
「オマエ虎杖のこと知ってたのか」
「………黙っててすみませんでした」


何はともあれ、虎杖合流。




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