27.


みょうじなまえは久々の休みに暇を持て余していた。
学生という名目柄、土日は基本休みではあるが、急な任務に呼ばれることもあれば今は交流会に向けて一年の扱きに付き合ったり。そんな休みらしい休みもない中、夏らしく晴れたある日曜日、冷房の効いた部屋に一人なまえはいた。
せっかくの休みだと言うのに、同級生はおろか後輩すらいない。皆朝から任務やら何やらで出払ってしまっていた。


「暇だなぁ〜」


思わず呟いたぼやきはクーラーの稼働音にかき消された。下ろし立ての淡い水色のワンピースも、高専を降った先のスーパーに行くまでの仕事で既に役目を終えた。そろそろ日も暮れる頃、同じく「暇だ」と送ったメッセージも同級生からの既読は付かないまま。誰か帰って来ないかなぁ、と思い浮かぶ顔に一人、そういえば常に高専の敷地内にいる後輩を思い出した。忘れていた訳ではないが、最近は五条の手解きに合っていてなまえはあの地下室へ向かう頻度は減っていたのだ。今、五条は確か出張に行っているはず。その間は伊地知にお願いしていると言ってた、が。もしいるなら様子を見に行こうと思い立ったなまえはベッドから降りて寮を出た。


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まだ暑さが残る中、一歩地下へ踏み入れると何処と無く冷んやりとする。次第に聞こえる映像音に、虎杖がいることを感じた。もう声をかけたら気付く距離になっても、こちらなど気にしないくらい真剣にテレビに張り付いていた。足の間にいるツカモトも気持ち良さげに眠っている。中々呪力の制御が身に付いたようだ。そんな虎杖に、少しの悪戯心がなまえの胸に湧いた。


「…………わっ!」
「っ!?!ぎゃあっ!バッ、っいっでぇぇえ」


驚かそう、とは思ったが。思った以上の反応と、起きたツカモトからの一撃を浴び床に伏した虎杖に、一瞬で悪戯心が罪悪感に変わった。


「……あれっ!?みょうじ先輩!」
「ごめん。そんな驚くと思わなくて…」
「いやいや、えっ?どうしたんすか?」
「んー、ちょっと様子見に来たの。虎杖君どうしてるかな、って」
「えー!」


そう嬉しそうに笑ってくれると来た甲斐があった。まあ自分も暇潰しに来たのだけれど。


「凄い集中力だね。もう呪力制御も様になってきてるし」
「そうかなぁ。あ!でも先輩が教えてくれたやつ。呪力を発生させる?あれ何となくイメージしてる!」
「ほんと?役に立てて良かった」


そう微笑むなまえを虎杖は改めてまじまじと見る。いつもの高専の制服ではなく、私服姿は新鮮だった。色の白いなまえに沿ったような水色のワンピース。とても似合っていて、可愛い。恋愛的意識はしていないものの、少しだけ照れが出る。


「みょうじ先輩……どっか出掛けてたの?デート?」
「違うからっ!もう。今日私だけ休みだったの、皆いなくて暇だったから」
「なるほどー。暇つぶしに俺んとこ来たわけね!」


いっけない、とバレたような笑いに手を当てて隠した。多分わざとだし、図星だ。そんな茶目っ気ある行動にも虎杖は今日一番の笑顔を向けた。一人で映画を観ても中々笑うこともないし、誰かと話すのはとても楽しい。地下にいると外の様子が分からないから、今が何時なのかも時計を見ないと意識出来ない。もう夕方なのか。虎杖はそういえば、と先程から気になっていた事をなまえに聞いた。


「ねえ先輩、今って雨降ってる?」
「ううん、凄くいい天気だよ。どうして?」
「なんかさっきから?ドンドン聞こえるから、雷かと思ったんだよね」
「どんどん?」


首を傾げてなまえは少し考えて、ああ、と思い出したように声を出した。そんなこと、すっかり忘れていた。


「お祭りしてるんだよ」
「祭り?」
「そう。高専の階段下った先の神社で。お祭りって言っても少し屋台出てるだけなんだけど。だからそこの太鼓の音じゃないかな。ていうか、良く聞こえるね」


祭りかぁ、いいなぁ。となまえの言葉を聞いた虎杖はうずうずした。夏らしいことを何一つせず、高一の夏を終えようとしている。それで良いのか、いや良くない。と一人反語を唱えた。


「行きたい!」
「えぇ〜?」
「ねーみょうじ先輩、お願い!俺も息抜きしたい!」
「うーん……、まぁ…、そうだよねぇ」


出会ってまだ日は浅いが、みょうじなまえはとても良い人だと思う。虎杖が高専で出会った大人だと五条、伊地知、家入などだが、その中でも一層優しい人だと思った。押しに弱いというか、困っている人を放っておけない人なのだろう。


「よし!任せろ!」
「おおっ!」


そう意気込んだなまえはスマホを掲げ、どこかへ電話をかけた。相手は伊地知だった。虎杖のことと、祭りに行くことを交渉しているようだ。交渉、と言うよりかは伊地知の良心に訴えるような言い分だ。上手いなぁ、と思った。やがて「ありがとうございますっ」という最後の言葉でそれが良い方向で終えたことを知る。


「良いって!」
「やったー!」
「もう日も暮れるし、人も少なくなりそうだからって。伊地知さんにも今度お礼言っておいてね」
「ハイっ!」
「あ、それでね〜…」


伊地知からの伝言によると、こういう時の為に五条が準備している物があるらしい。それがとても不安そうな声だったし、なまえ自身も"五条が準備した"という事実に伊地知がそういう反応するのも分かる。恐る恐るビデオデッキの棚を開ける。


「何、これ?」


そこに入っていたのは、変装セット。カツラや伊達眼鏡、帽子など様々だ。この眼鏡…五条が昔似たようなのをかけてなかったか?と訝しげにそれを拾い上げた。


「ぶははっ!ねえ先輩!見て見てっ」


とんだガラクタばかりだな、となまえが漁ってる後ろで何やら楽しそうな声で呼ぶ虎杖を振り返る。そこにはそんな物まで入っていたのか、と思うつけ髭ーーもといちょび髭を鼻の下につけた虎杖の姿。思わず吹き出す。


「ちょっ…。ふふっ、ねえ!ちょっと、遊ばないでっ。真面目に変装して!」
「えー?めっちゃ良くない??絶対バレないと思うんだけど」
「却下ですっ」
「えー?」
「というより、私が隣歩きたくないよ。絶対笑っちゃうもん」
「そっかぁ」


本気で気に入ってたのだろうか、残念そうにベリッとその髭を剥がす。それからも色々試したがどれもしっくりこず、とりあえずつばが広い山高帽子を被せた。なんか全身黒ずくめになってしまったが、ないよりマシだろう。


「よし!じゃあ行く?ここ出て裏の階段降りれば誰にも会わないと思うし」
「行く行く!ありがとう先輩!」
「どういたしまして」


わくわく、と擬態語が聞こえてきそうな程喜ぶ虎杖。そんな期待するような催しはないような気もするけれど、それでもなまえも忘れていた祭りへ行けることに、少しばかり胸を弾ませながら地下室を出た。




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