02.


「第一回!チキチキ鬼ごっこ対決〜」
「「おおー」」
「しゃけー」
「………いや、何ですか」


一年が今のところ伏黒一人しかいないため、体術実習なんかは合同で混ぜてもらっている。しかし、色んな事に飽き始めた2年組が突如始めた号令に伏黒だけ付いていけてなかった。


「ノリ悪いぞ〜恵〜」
「いや、急に何か始められても」
「恒例だぞ」
「しゃけしゃけ」
「今、第一回って言ったじゃないですか。初めてでしょ、やるの」
「違う違う。もう数え切れないの。今年度初めて、って意味で、今日が第一回です!」


[ チキチキ鬼ごっこ ルール ]
1. 制限時間は終業時間まで。逃げ場所は区画内のみ。
2.オニ(親)である1人が、他の全員(子)を捕まえればオニの勝ち。
3.子が1人でも逃げ切れば子の勝ち。


「術式有無はどうする?」
「最初だし無しでいいだろ。恵のポテンシャルも知りたいしな」
「今日の奢りは」
「夕飯」
「明太子」


目の前で決められることに、まだ伏黒は置いてけぼりにされている。要はただの鬼ごっこ。真希がいるから多少の身体能力のレベルが高い鬼ごっこだ。術式無しと言っているから単純な体力勝負といったとこだろう。


「賭け事あるんですか」
「そんな違法なものじゃないよー」
「鬼が全員捕まえれば、最初に捕まった奴が鬼に奢る。誰か一人でも逃げ切れば鬼が逃げ切った奴に奢る」
「それ鬼不利過ぎません?」
「そんなことねぇよ。複数逃げ切ったら結局じゃんけんで決めるから実質一人に奢りだしな」


とりあえず鬼なら捕まえればいいし、そうでなければ逃げ切ればいい。誰が鬼になるかにもよるが、術式無しならば真希が鬼だと厳しいだろう。5人でじゃんけんして決めた結果、鬼は狗巻となった。
伏黒の身体能力を2年はまだ把握していないが、伏黒もまた2年のポテンシャルを測りかねていた。真希は言わずもがな、パンダも呪骸だからある程度は。狗巻となまえはほぼ未知数だった。そもそも鬼である狗巻は、呪言師でありながら術式無しでどうするのだろうか。
鬼が動き始める迄の1分間を終え、伏黒は木々の間に身を潜めていた。そろそろ狗巻が動き始める頃だろう、と様子を伺うように顔を覗かせる。近くの茂みが揺れる。人か、動物か。逃げるか否か、判断を下す前に現れた人影に拍子抜けした。


「みょうじ先輩」
「あ、伏黒君だ」


小動物のように小股に小走りするなまえは、伏黒の隣にすとんと腰を下ろした。


「ここ私の隠れ場所の一つだったのに、伏黒君やりますな」
「…そしたらバレませんか」
「いや、さっき棘反対側に走って行ったから大丈夫だと思う。多分パンダの方だな〜」


会話が切れると風に揺れる木々の音しかしない。正直、気不味い。まだ良く知らない、しかも異性の先輩と何を話せばいいのか。いや仮にも夕飯がかかった真剣勝負の最中だ、あまり気が散る会話もしたくない。


「この鬼ごっこ、最初は憂太の為に始めたんだよね」


懐かしむように少し上を見ながらなまえは話し始める。「乙骨先輩ですか?」と聞くとこちらを向いて頷いた。


「最初の頃の憂太、ひ弱でさ〜。少しでも楽しく実習出来ればと思ったんだけど、もう連敗続きで」
「あの人、特級ですよね」
「あはは、そうなんだけど」
「全然、想像付かないですね」
「今と比べるとね。だから、結構久しぶりなんだよね、鬼ごっこ」
「みょうじ先輩は、体力に自信あるんですか」
「いや、全然」


この通り、と言わんばかり手を広げた。乙骨のことを「ひ弱」と称しながらも、自分のことは棚に上げるのだろうか。広げる手は細い腕が伸びるのだから、体力の無さを裏付けるには確かにと感じる。


「狗巻先輩も、あの人呪言師だから近接のイメージないんですけど」


ああ〜と納得するような声を上げる。しかし次にはすぐ笑い声に変わった。


「棘はねぇ、私達の学年の中では、舐めてかかると一番痛い目見ると思うよ」


すっ、と立ち上がったなまえは手に持った枝を、少し遠くの木の上に向かって投げた。パキッと鳴った枝はパラパラと葉や他の枝に当たって落ちる。その行動をしゃがんでいる伏黒は首を上に向けて見ていたが、見下ろされた笑顔は悪そうな顔をしていた。


「じゃ、ごめんね伏黒君」


なまえがそう言ってすぐ走り出したと同時に、茂みから音に釣られて狗巻が現れた。
マジか。あの人、出しに使いやがった。と、既に姿が見えなくなったなまえを小さく恨んだ。瞬発力で言えば伏黒もやや遅れたが、取り戻せない距離ではない。まだ狗巻を撒けることは出来るはずだと踏んでいた。
しかし、走り始めた狗巻との距離は徐々に縮まっていく。ポンと叩かれた肩に、足をゆっくりと止めた。

(足速ぇ………)

別に舐めていた訳ではないが、先程なまえから聞いた"痛い目に合う"ことをこの瞬間悟った。膝に手をつき、呼吸を整えながら狗巻を見上げる。


「俺が、一番最初ですか」
「しゃけっ」


ピースを成す指に、また溜息が出た。


「みょうじ先輩なら、あっち行きましたよ」


そう、指差す方向に、狗巻は何やらおにぎりの具を口にして去って行った。なまえが、本当に走り去った方向とは、逆の方へ。
このまま、捕まってしまえば自分が狗巻に奢ることになってしまう。囮にしたからには、最後まで逃げ切って貰わなければ。
ここは、普通の学校ではない。学生は全員呪いを学ぶ、呪術師だ。見た目や性別、性格では分からない人間性がここにはある。甘く見ていい人なぞ、一人もいないという教訓を得た。




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