14.


夏の日差しが辛くなってきた今日この頃。
釘崎は新しいジャージを求め、若者の聖地の呼ばれる原宿へ来ていた。せっかく訓練から逃れて来たのだ。見たことのない店、田舎では絶対に有り得ないキラキラしたポップなカラーリングが建ち並ぶ。ジャージと靴だけを買おうと思っていたが、目移りして道草を食ってしまうのは女子高生の性だ。気付けば両手にショップ袋を4つと抱え、まだ見ぬ原宿の奥地へと向かおうと思った、のだが。


「裏原??裏原ってどこよ!!地下!?」


どうしてこうも東京という都会は、同じような道が入り組んでいるのだろう。打つけようのない苛々を、とうとう口に出してぶち撒けた時だった。表の煌びやかな通りとは正反対の幽幽たる道を曲がった先、見覚えのある人を見つけた。個性的なファッションが行き交う中で浮く制服に、短いスカートから伸びる白く細長い足。整った顔立ちが横顔でも分かる。
みょうじなまえだ。
スマホを見て立ち尽くし、辺りを軽く見てはすぐ歩き出した。任務だろうか。なまえは他の3人の先輩と違い、訓練にいつも顔を出してくれている訳ではない。曰く、なまえにはなまえにしか出来ない事が多々あるから単独でも駆り出される事が多いらしい。戦い方も術式も未だ謎に包まれるなまえに、裏原という場所よりも興味が湧いてしまったこれも術師の性。


「みょうじせーんぱいっ」
「わっ!………あ、吃驚したぁ。釘崎さん」


人を掻き分け声を掛ければ、気付かなかったなまえは驚きの声を上げた。なまえは釘崎のことを"さん付け"で呼ぶ。伏黒のことも"君付け"なのだから、それが彼女のデフォルトなのだろうと思っていたが、同級生のことは呼び捨てにしてるからそうでもないらしい。真希達のように、下の名前で呼んでくれてもいいんだけどなぁ、と思いつつ言えないでいた。そんなことは一旦置いておいて、渦中のなまえに話しかけた。


「先輩、何してたんですか?任務?」
「うん、まあ、そんなとこ。釘崎さんは?買い物してたの」
「そうです!やっぱり訓練するには制服だとキツいんで。ジャージと靴と、あとせっかくだから化粧品なんかも…」


本日の釣果を紹介しながら紙袋を持ち上げる。それを見ながら楽しそうになまえは笑った。可愛くて優しいなまえのことを、釘崎はどこかで"沙織ちゃん"に面影を寄せていたのかも知れない。同じように可愛くて聖母のように優しかった"沙織ちゃん"。クソ田舎のせいで悪くないのに追い出された理不尽さを知っている。優しさが踏み躙られることを。それでも今目の前で笑っているなまえを見れば、"沙織ちゃん"もこの東京の空の下の何処かで笑っているかもしれないと勝手に安堵した。


「みょうじ先輩ってあんまり化粧しないですか?」
「うん。スキンケアだけかな。眉はちょっとだけ書いてるけど。前にファンデ試したら、なんか色合わなくて」
「あぁ〜先輩、色白いものね」


陶器のように白い肌。同じ女子?毛穴ある?って感じ。釘崎は釘崎で自分なりの化粧、お洒落をしている自分が好きだからそれはそれでいいのだが。


「じゃあー、今度一緒に買い物行きましょ!先輩に合うもの見つけてあげる」
「え、ほんとに?嬉しい!行こ行こ」


女子らしい会話になまえも顔を綻ばせた。真希も誘って女子生徒3人で、そんな約束に楽しみが増えた。釘崎との会話に花を咲かせていたなまえだったが、時計を見てあっ、という顔をした。


「ごめん、釘崎さん。私そろそろ行かなきゃ」
「あ、そうよね。任務の途中にすみません」


買い物楽しんでね、と手を振って踵を返した背中に、釘崎は思わず呼び止めてしまった。ほぼほぼ終わった買い物と原宿の地への興味より、なまえの任務という興味の方が断然湧いてしまった。


「私も、着いて行っちゃ駄目ですか?邪魔しないんで!荷物も、あぁ〜…ちょっとだけ、ちょっとだけ待ってて貰えればその辺のコインロッカーに預けてくるから!」


そうなまえの返事を聞く前にコインロッカーを探し求めて忙しなく背を向けたら、後ろから名を呼ぶ声に足を止める。あぁ〜やっぱり無理だったかな、と頭で思いながらなまえの顔を見る。


「荷物、そのままでいいよ。そんなに動き回らないから」


考えていたこととは異なる言葉を掛けられ、目をパチパチした。


「いいんですか?一緒に行っても」
「うん。でも多分、あんまり面白くないと思うんだけど……それでも良ければ」


申し訳なさそうに眉を下げて答えるなまえとは異なって、釘崎は嬉しそうに「やった!」と声を上げた。紙袋をぐっと持ち直して、跳ねる足取りを抑えつつ釘崎はなまえの隣に付けて歩き始めた。




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