11.


6月も半ばが過ぎた頃、高専にやっとのことで入学を果たした釘崎野薔薇が二年生と出会ったのは梅雨が明けた、7月の始めのことだった。同級生が亡くなった翌日とは言え、悲しみに暮れる暇もない。そんなチョロい女ではない、と言い聞かせる中で空気が読めないほどに騒ぐ3人を見ながらもう一人の同級生である伏黒恵に尋ねた。


「何。あの人(?)達」
「二年の先輩」


そう言って淡々と紹介し始める。端的過ぎて名前くらいしか頭に入って来なかった。そもそもパンダって何だ。パンダはパンダ以外ないのか。そんな突っ込みも伏黒は答えてくれなかった。


「あと、乙骨先輩って唯一手放しで尊敬できる人がいるが、今海外」


4人いるのか、と見ていたが伏黒は辺りを見回すように首を動かした。さほど探していないようにも思えるが、面倒臭くなったのか、結局聞くことにしたようだ。


「みょうじ先輩は」
「あ?パンダ、一緒にいたんじゃねぇの」
「いや〜さっきまで一緒にいたんだけどなぁ、どっか行っちまった」
「しゃけ」


あの人いつもいないな、と伏黒が呟くのを聞くと、どうやら二年の先輩はもう一人いるらしい。


「もう一人いるわけ?」
「ああ。結界術を使う女の先輩」


それ以上何も答えない、本当に端的だな。コイツはクールを履き違えてんな、と伏黒に対する印象を考えていた釘崎だったが無言の後、「俺はあの人が苦手だ」と零した苦言に「へえ」と意外そうに伏黒を見た。会って二週間、伏黒はまあ人間関係を築くのが得意かと言われたら、それは否と思っていたが自ら苦手という相手がいる事実が思ったより意外だった。その理由を聞こうと口を開けたが、割り込まれた言葉に遮られた。


「そんなにはっきり陰口言われると、」


それが誰であるか確認する前に、伏黒の肩が気まずそうにギクっと上がる。釘崎が振り向いた先には、腕組みした女生徒がいた。


「……傷付くんだけどなあ」


不服そうにに口を尖らせた彼女に、「みょうじ先輩…」とその名を呼んだ。第一印象は、背が低い。あと滅茶滅茶可愛いということだった。色が白くて、大きい黒目と黒髪が良く映える。


「どこから、聞いてたんですか」
「ん〜、憂太のことは尊敬できるってとこ」
「…そうですか」


伏黒への興味はそこそこに、釘崎と目を合わせて笑顔を向けた。その太陽が眩むような笑顔に、思わず手で遮ってしまおうかと思った。


「どうもー。伏黒君に苦手と言われたみょうじなまえです」


柔らかく手を振るなまえに、軽く会釈をした。隣の伏黒は些か気まずそうに頭を掻いた。「根に持つつもりですか」「もちろん」と笑って答えるなまえと伏黒の関係は、苦手だ称するほどには見えなかった。


「おーなまえ、どこ行ってたんだよー」
「こんぶ」
「ごめんごめん。大丈夫?真希、余計なこと言わなかった?」
「いや、手遅れだった」
「あら〜」
「誰が手遅れだコノヤロウ」


呼ばれた二年の輪になまえが加わると、さらに喧騒が生まれる気がした。煩い、というよりは賑やか、という感じだ。伏黒も同じような事を考えていたように小さく息を吐く音が聞こえた。


「で、先輩達何か用ですか」
「あ、そうだった。いやぁ、実はオマエ達に"京都姉妹校交流会"に出て欲しくてな」
「京都姉妹校交流会ぃ?」


九月に行われる京都にある呪術高専との交流会。殺す以外なら何をしてもいい呪術合戦だ。仲間が亡くなったばかりの伏黒と釘崎には、「やる」以外の返事はなかった。任務もあとそれなりに残っているが、ボチボチ落ち着く頃だ。二人の強くなるという決意に満ちた目に恥じないように、なまえ達二年も顔が立つようにしなければ。同じくらいの決意を胸に、本格的に夏が明けた気がした。




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