10.


「た、食べちゃったの?呪物を?」


パンダからそう聞かされたのは高専の談話室での話だった。なまえ達が高専に帰って来た時、伏黒は不在で行き違いのまま会えていなかった。驚愕の事実に思わず聞き返すなまえと、目を丸くする真希と狗巻は3人でパンダを見据える。


「らしい」
「いや、死ぬだろ。猛毒だぞ」
「おかか」


伏黒が赴いた任務は、特級呪物である宿儺の指の回収。何があったか詳しくはパンダも知らないみたいだが、夜蛾から仕入れた情報を話していた。呪物を喰らう、本来なら真希の言う通り普通の人間が無事なはずはなかった。しかしそれを食べた人間が生きているということは。


「受肉したってことか?冗談だろ」
「いや、マジマジ。今度高専に入学するための面談に来るって」
「え、学生だったの?」
「なんでも恵と同い年らしいからな」
「ありえねぇ。宿儺の受肉体だぞ、呪いだ」
「まあ、詳しくは知らんが一度秘匿死刑にはなったと聞いた」


秘匿死刑。昨年乙骨憂太も受けた身だ。生かされたということは、乙骨と同じく五条の手に掛けられたのだろう。それに何より、その場にいた伏黒が手を下さなかったのだからきっと悪い人ではないと判断をしたのだ、と予測ばかりが頭に過ぎる。真相は本人に会うまでは分からないけれど。


「楽しみだなぁ。後輩増えるの」
「何呑気な事言ってんだよ」
「そうだけどさ。元々憂太だって同じ身の上だったし、私達慣れてるじゃん?」
「まあな〜」
「しゃけ」


ハァ…と頬杖をついた真希の口から溜息が漏れる。そんな真希と対照的に緩く笑うなまえの顔は、問題を問題として考えない瑣末さを含んでいた。
なまえ自身も、死刑宣告までは受けていないが上層部には要観察と目を付けられている。実際死刑と言われた乙骨が最初はああだったように、これから編入してくる一年生の少しでも力になれればと思っていた。多分、今までは普通の高校生だったのに。急に呪いが見えるようになり、死刑と言われ。まあ呪物を喰べるくらいなのだから充分イカれている子なのだろうけど。


「でも、会えるのはまだ先かなぁ」
「なまえもこれからまた任務だっけか?」
「そう。真希と一緒に」


ね、と顔を真希に向ければひらひらと手のひらを振った。真希は呪具を持ちつつも、生身の身体で割と無鉄砲に呪霊に向かっていく為、サポートでつくなまえとしてはいつもヒヤヒヤする。それも一年の付き合いだ、もう慣れた。狗巻も単独任務、パンダも別行動。四人がまた揃う頃には梅雨も明けているだろう。


「そういえば、もう一人、元々決まってた一年が来るのももうすぐじゃねぇか」
「あっ、そっか!女の子が来るんだよね」
「嬉しそうだな」
「えー、だって女子増えるの嬉しくない?仲良くなれるといいな」
「これから賑やかになりそうだなぁ」
「しゃけ。明太子」


伏黒と共に既に入学が決まっていたもう一人の一年生もやってくる。ようやく学校らしく生徒が揃い始めたことに、憂鬱な雨を吹き飛ばすように胸が弾む。今は繁忙期だからお互いにすれ違いが続いてしまうけど、夏になれば落ち着く頃だ。


「あとは交流会の準備もしなきゃなんだよな」
「え、もうそんな時期?」
「しゃけ」
「っていうか、私達どうするの?」
「ボンクラ3年が停学なんだ、恵達に出てもらうしかねぇだろ。帰ったら早速訓練に入るぞ」
「明太子」


六月の終わり。関東甲信地方では平年より22日早く梅雨明けを発表した。統計開始以来、初めての六月の梅雨明けだった。窓の外から見る空は、既に夏を知らせるような青空が広がる。今年は暑く、そして長い夏になりそうだ。




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