追憶(1)


2001年某月某日。とある縁結び、福の神を祀ると名高い「千家大社」の嫡女としてなまえは生まれた。この千家家は呪術師の家系としてもその名は通っており、特に千家の者しか持たない術式、"呪記"の使い手だ。

"呪記"
その字の通り、記した文字に呪いがこもる。
それを使用した結界術にも長けていたが、その本領を最も発揮出来るのは攻撃時によるものだった。その強さは特級をも凌ぐ強さだったという。

なまえもその術式を継ぐ一人であり、読み書きは既に3歳である程度理解出来るよう教育されていた。
しかし、どれだけ教えようと、どれだけ書かせようとしても相手を傷付けるような言葉を、なまえは書けなかった。読むことも、言葉の意味も理解していたのに、書くことだけが出来なかったのだ。なまえはその内、親族内でも"出来損ない" "落ちこぼれ"のレッテルを貼られ追いやられていった。待望の嫡女として生まれたなまえへの興味も、1つ下に生まれた次女の出来の良さへと変わっていった。
なまえへの千家からの扱いが変わったのは、なまえが5歳になる頃のことだった。


「出来損ないのお前に、将来嫁に出す先への話をまとめてきた」


その言葉の意味を理解できるほどのの考えは、当時5歳のなまえにはなかった。だが、これでようやく千家からの解放と、やっと一族として役立てる思いだけが小さな胸の中にはあったのだ。


「狗巻家、呪言師のエリート一族だ。術式の関係で昔から付き合いはあったが、向こうにもお前と同い年のご子息がいるらしい。そこの縁談だ。こちらの長子を出すことを喜ばれていたぞ。感謝するんだな、お前みたいな落ちこぼれの貰い先を見つけてやったんだ」


よく言う、となまえは思った。何故なまえが千家の術式を正しく受け継がなかったか、それはなまえが外で作られた子どもだったからだという事実は、一部の人にしか伝えられていない。そういう意味も含めて、なまえはもう千家家には"いらない子"だったのだ。
それでも千家の一族としてこの縁談が一族の為になるのであれば、この身は捧げるつもりだった。

しかし、その約束が果たされることはなかった。
翌年、2007年11月20日。旧暦で10月のこの月は神無月と言われるが、日本中の、八百万の神々がここ千家大社に集まることで知られるこの地域だけは「神在月」と呼ばれる。ちょうど神在祭が催されるこの日、呪術界を震撼させる残虐事件が起こり、千家一族は滅亡した。
"親が決めた"だけの許嫁など、なんの意味も持たなかった。




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