宣戦


寒っ、と思わず手を擦り合わせた。今日は東京でも12月一番の寒さらしい。マフラーだけでは事足りなくなってきたが、それでも唯一の防寒具に顔を埋めた。
今はちょうど5人での任務を終えて、高専に帰ってきたところだった。なんてことはない、最近の一年だけの任務は怪我も問題も全くなくこなすようになっていた。


「憂太?どうしたの」


隣を歩いていた乙骨が急に立ち止まり、何か探すように振り返ったので声をかける。


「なんかちょっと、嫌な感じが…」
「気のせいだ」
「気のせいだな」
「気のせいだね」
「おかか」


乙骨の言葉に皆が全否定してしまったことになまえは思わず笑ってしまった。乙骨は里香が傍にいるからか、何もないところでも"いる"と言い出したり、いるところでも"いない"と言ったり、今でこそ皆慣れてしまったが、ここまでだいぶ振り回されて来た。が、今日に限ってはそうではなかった。急に感じた呪力に、乙骨以外の4人は空に目を向ける。降り立ったのは大きなペリカンと、多分、人間。


「はじめまして乙骨くん。私は夏油傑」
「えっ、あっはじめまして」


自分たちまでの距離は百メートルほど、あったはず。気がつけば真隣の乙骨と握手し、自己紹介している夏油という男。げとう、ゲトウ、なんだっけ、どこかで聞いたことある名前で、なまえはなんとか思い出そうとするけど、全く思い出せる気がしなくてすぐに諦めた。そう頭の中で回転している間、夏油は乙骨を離さないまま理想論を語り出す。
"非術師を皆殺しにして、呪術師だけの世界を作る"
言葉として耳に入ってくるが、何一つ意味が入ってこない。意味を理解したところで気持ちが悪くなってきた。


「僕の生徒にイカレた思想を吹き込まないでもらおうか」


声の方に向けると五条の姿があり、少しだけ安堵の表情が戻る。五条だけではない、学長の夜蛾、その他にも一級以上の呪術師が周りを囲んでいた。"夏油傑"それだけ危険人物なのだということが、今のこの状況が物語っているのを理解する。


「来たる12月24日!!日没と同時に!!我々は百鬼夜行を行う!!!」


そう宣戦布告をした夏油。新宿と京都、千の呪い、鏖殺…なまえの中で夏油の言葉が目紛しく駆け巡る。これから起こること、自分に何が出来るのか、考えるだけで変な汗が出てくる。
あの後五条も含め、学長の対策会議が急遽発足され、なまえ達生徒は自主待機となった。今は5人で教室にいる。何をする訳でもなく、椅子に座ったまま一言も発しない。その静寂を破ったのは乙骨だった。


「これから、どうなるんだろう……」
「どうなる、ってなるようにしかならねぇよ」
「僕達も行くのかな」
「まあ、棘は入るだろうな…」
「明太子」
「それ言うならパンダも行くでしょ…」


重い空気が教室を占める。真希の言う通り、なるようにしかならない。だけどこんな時にすら何も出来ない自分に歯痒さしかない。力のない自分を、嘆くしかない。戦場に向かう仲間のことを、無事を、祈るしか出来ない。それが悔しかったら強くなれ、と誰かに言われている気がした。




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