級友


「あー、よかった!隣が同じ1年生で」

こうなった以上しょうがないので、真希は彼女を自分の部屋へ招き入れた。彼女がまだ見ぬ同級生だということも理解した上での判断だ。

「あ、自己紹介まだだったね。私、みょうじなまえです。改めてありがとう。えーと…、」
「…真希だ」
「まき?苗字?名前?」
「名前。苗字で呼ばれるのは嫌いなんだ」
「そうなんだ、じゃあ真希。ありがとう」

そう笑うなまえに別に、とそっけなく返す。真希が"禪院"の性であることはいずれ分かることではあるが、初対面でその理由を聞かない奴も珍しかった。興味がないのか、別に聞く理由もなかったのか。考えたところでどっちでも良かったが、真希はなまえに会った時から気になってたことを聞いた。

「オマエ…いや、なまえは任務行ってたんだろ?その怪我、その時やったのか」
「ああ、これー?」

おそらく折れたのであろう吊ってる右腕の肘を軽く上げた。

「まあ、やったって言っちゃあやったんだけど。ある意味自業自得みたいなもんなんだよね。めっちゃ怒られた」

理由にもなってないような理由を述べるなまえに、真希が訝しげな顔をするのでなまえは話を続けた。

「折れ方がさ、結構いい感じだったの。あ、いい感じっていうのは綺麗に折れなかった、っていういい感じね。で、これはいい練習になると思って治そうとしたら失敗しちゃってさ。橈骨と尺骨が別々にくっついちゃって、」

あ、外側の親指に付いてるのが橈骨で、内側が尺骨ね、と空いてる左腕をなぞって教えてくる。が、今はその医療知識はどうでもいい。……治した?

「それで、」
「…ちょっと待て」
「ん?」
「治した、ってなんだ。オマエ反転術式が使えるのか?」

反転術式。呪力による治癒で高度な技術が必要だ。それを同じ1年生がやってのけるのか。

「んー、まあ上手く出来たらこんな結果にはなってないんだけど。精度が安定しないんだよね、硝子さんみたいなセンスないし」

それでもまあ出来ることには変わりはない。呪術師は才能が8割だ。呪力がある、術式がある、センスは様々。呪術師としての強さがどうであれ、反転術式が使える同期がいることは今後きっと役に立つと真希は思った。

「で、真希は呪具使いなの?」

怪我の話はもういいと思ったのだろう。なまえは壁に立て掛けた武具を指差した。

「…ああ。私はこれがないと呪いが祓えねぇ」

今度はなまえが真希の答えに疑問を浮かべる番だった。真希もそれを察してか、続けて答えた。

「私には呪力がねぇ。ダセェ眼鏡がねぇと呪いも見えねぇんだ。だから最初から呪力がこもってるモンじゃねぇと呪いが祓えねぇ」

今日、しかもさっき会ったばっかの同級生に、苗字より先にこんなことを教えたことを真希自身も疑問だった。そこまでみょうじなまえのことを信用してるか、と聞かれたところで、それも疑問だった。しかし当のなまえは真希の事実に驚いたように目を開いた。

「じゃあ、なんで呪術師やってるか、なんて腐る程言われるでしょ」
「まぁな」
「ふふ、だろうね。でも、そっか。じゃあ真希は私と逆だね。……私は呪力があっても呪いが祓えないから」
「……は?」

呪いが祓えないとはどういうことだ。呪力はあるのに。そもそもなまえは任務に行っていたはずだ。ということは祓いに行っていた、はず。
考えても浮かんでくる疑問を他所に、なまえは真希の目の前の机の上に一枚の紙を置いた。見る限り、お札のようだ。その上から手を翳すと、立方体が現れる。

「これは…、」
「結界術。………私が出来るのは呪いから守ることのみ。攻撃っていうのかな、私には出来ないんだ。だから今日までの任務も、サポート的な感じで着いて行っただけ。実際祓ったのは先輩呪術師だよ」

手を下ろすと、その結界も消え札も煙になった。なまえはそれを手で空を切り、適当に払う。

「じゃあ…なまえはどうやって戦うんだ?」
「…うーん、低級、4級3級とかなら素手でなんとか」
「は?素手?」
「うん。素手」

さも当たり前のようにいってのけ、左手で作ったであろう力こぶは、とてもそんな腕っ節とは思えない細く白い腕が出ているだけだった。この枝のような腕で何が出来るのか、なんだか面白くなって真希は思わず吹き出した。

「私も腕っ節には自信があるんだ。明日からの実習が楽しみだよ」
「それは、私も楽しみだ」

この日、結局なまえは扉を壊した自室には戻らず、真希の部屋で一晩を明かしたのだった。






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