反魂


歩いてきたのは商店街だった。食べ歩きにはちょうど良く、コロッケまでは狗巻と一緒に食べたが、その後のたい焼き、ひょうたん揚げ、お団子、ドーナツ…とさすがになまえも一人で食べ過ぎた、と割と後悔を抱きながらも、ようやく今はずんだシェイクを二人で飲みながら落ち着いている。


「…なんか、一人で食べててごめん……」
「おかか、…明太子」
「うん。このずんだシェイク、凄い美味しい」


夕飯は牛タンかなーとこれだけ食べてもまだそんなことを言うなまえに、狗巻も横目で見て薄っすら笑みを浮かべる。そんな、なんの変哲もない休日の商店街の人波に紛れて、その"淀み"はあった。今すれ違ったおそらく親子、普通では考えられない呪いの気配に二人は思わず振り返る。


「狗巻くん…」
「しゃけ」
「でも、ここだと人が多すぎる。どうしよう、後着ける?」


狗巻が再度肯定してくれたことを確認して、今来た道を戻ることにした。少し離れたところを歩いている親子は、赤ん坊を抱いた母親と5〜6歳の少年。この遠さだと特定の把握は出来ないが、十中八九、この気配はあの赤ん坊から発せられているものだというのは分かった。商店街を抜けて、閑静な住宅街への道へ出たところで声をかけようかどうしようか迷っていたら、掛けてくる足音と腹部に受けた衝撃に思わず仰け反る。目の前で連れ歩いてた少年がなまえの腰に手を回ししがみ付いていたのだ。え、と思わず狗巻に目を向けると、しがみ付いたままの少年がか細い声で呟いた。


「お願い、助けて……っ」
「春人!何してるの!」


母親がこちらまで近付いてくると、春人と呼ばれたその少年は、さらにぎゅっと力を込めてしがみ付いてきたその背中をなまえは優しく触れる。近くに来て分かった、この母親が抱いているのは、赤ん坊なんかではない。


「すみません。こら春人!離しなさい!」
「あの、いえ、大丈夫ですよ」


そう母親に答えながら、少年に目を合わせるように屈み「大丈夫だよ」と声をかける。


「もう、いい加減にして頂戴!冬樹だけでも大変なんだから。お兄ちゃんなんだからもう少ししっかりして!」
「やだ!帰りたくないっ!"そんなの"弟なんかじゃない!」


側から見たら、親子喧嘩に巻き込まれた不運な高校生にしか見えないだろう。この状況で取り乱している母親の態度を見たら一目瞭然だ。これは、正気ではない。春人の言葉に激昂した母親の手が降り上がるのが見え、隣の狗巻もそれを抑えようと動くのが見えた。が、なまえは狗巻の裾を掴んでそれを制す。
そのまま勢いよく振り下ろされた平手は、春人に覆い被さったなまえの頭へと打たれた。


「あ………っ」


他人に手を上げてしまって動揺した母親の手元から、冬樹、と呼ばれるその赤ん坊"らしきもの"が布から顔を出した。人形、と呼ぶには余りにも粗末なもので、顔は継ぎ接ぎだらけ。辛うじて赤ん坊らしく動くが、その姿は悍ましいことこの上ない。


「それ、は……」
「"それ"?貴女、人の子供に、失礼じゃないですか…?」
「…本当に?本当にそれを自分のお子さんだと……?この子、よりも?」
「当たり前でしょう?!どっちも私がお腹を痛めて……っ」


そこで自分の抱いている"モノ"に目を落とす。薄く縫い付けられた髪の毛、ところどころ中身の綿が継ぎ接ぎからはみ出ている。赤ん坊、と呼ぶには悍まし過ぎる"それ"が自分の子供ではないことをようやく受け入れた、らしい。泣き崩れた母親に寄り添うように、春人はなまえから手を離して傍に近付いた。




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