閑話


季節は9月。京都で行われた交流会が終わって乙骨となまえが帰ってきた。元は乙骨だけ行く予定たったのだが、急遽呼ばれてしまい、なまえは嫌々京都に行って来たのだ。


「どうだったよ、交流会は」


帰って一日明けた日の昼、5人は休憩室でお土産の八ツ橋を食べながら談笑していた。真希からの質問に乙骨と顔を見合わせたなまえは、もう思い出したくないという顔をして真希に答える。


「どうもこうも…あの、東堂っているでしょ」
「ああ…あの化物か…会ったのか」
「会った会った。ヤバい人だった」
「おかか」
「どんな感じだったんだ?」


なまえは一日目の団体戦で乙骨とともに行動していた。一年は2人で1人分働ければいい、との仰せだった。そこで会ってしまった東堂とのことを思い出す。


***


「一年、乙骨とか言ったか」
「あ、はい……」
「どんな女がタイプだ」
「「…………」」


え?今聞き間違えた?と思う質問だった。小声で乙骨が答えた方がいいのかな、と聞いてくるから、そうじゃない?と適当に返す。


「遅い。早く答えろ。因みに俺は身長と尻がデカイ女がタイプだ」
「うわぁ……私と真逆だ」
「みょうじさん……」
「もう一度聞くぞ、どんな女がタイプだ」
「乙骨くんは、胸の大きい人が好きです」
「ちょっとみょうじさん…っ!」


焦った乙骨に、だってそう言ってたじゃん、と言いながらなまえは逃げるタイミングを探っていた。"東堂に出会したら逃げろ"それが先輩から貰った唯一のアドバイスだった。東堂は、胸派か…と考えた素振りを見せている。が、気付けばなまえは一瞬にして吹っ飛ばされていた。ギリギリで張った結界も破られ、ガードした腕は痺れている。なんとか飛ばされた先で着地し、手をついた。


「っ、みょうじさん!」
「だ、大丈夫……」
「ほう、女だから手加減したが、受けたのか」
「…それはどうも。優しいんですね」


まずい、これはまずいとなまえは思った。結界を素手で破る奴がいるとは。なんとかして東堂から乙骨を離さなければ、と。戦闘態勢に入って東堂と闘り合おうとしている乙骨の後ろ襟を引っ掴んで、間一髪東堂の一発を避けた。


「憂太、無理!逃げる!」
「え!?」


だが、逃げようとした道を呆気なく東堂に塞がれ、あ、これもう終わったな、となまえが覚悟を決めた時だった。


「僕には、里香ちゃんがいるので、」
「…里香?それはどこのアイドルだ」
「里香ちゃんは……」


『 呼" ん だ ァ???』


乙骨の背後には里香が顔を出していた。慌ててなまえは簡易的な"帳"を周りに張った。里香を見えなくする"帳"だ。交流会が始まる前、五条に言われたのはもし、里香が現れたら見えないようにして欲しいというものだった。京都校の楽巌寺学長は保守派だ。もし乙骨が里香を出してしまったのを見られたら、"そういう"指示がしやすくなるのだろう。なまえは五条の言葉を聞いて、(だから私を呼んだな)と察したがまさか本当に里香が出てきてしまうとは。


「里香ちゃん!!」
「コイツが………里香?」


さすがの東堂も驚いたように里香を見上げる。その禍々しさから若干腰が引けているように見える。もう逃げるなら今しかないと思った。が、


「……そうか」


そう呟いた東堂の方がまさかの立ち去ってしまった。


***


「東堂の方が退いたのか」
「そうなの。お陰で助かったんだけど」


あとはなんとか里香を引っ込ませるまでなんとか気を引きながら歩いていたら、里香に寄ってくる呪霊を乙骨が祓ったのがほぼ全てだったようで東京校の圧勝で終わってしまったのだ。


「憂太、全然里香のこと引っ込めてくれないんだもん」
「ご、ごめん…」
「まぁ、それで勝ったんだから良かったじゃないか。というかなまえ、憂太呼びになったな」
「もうね、あの状況で"くん付け"する余裕なんてない」
「じゃああとは棘だけだなー」


ちらっと狗巻を見たなまえだったが、別に名前呼びしなきゃいけないルールはないじゃん、とパンダが言ったことをスルーし、


「もう疲れた。私来年は出ないからね」


そう机に突っ伏したなまえを4人は笑いながら見ていた。




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