修錬


「狗巻くん?……もしかしてまだ指痛いの?」


手のひらをじっと見てる狗巻に、なまえは心配そうに見上げて声を掛ける。狗巻はそんななまえに否定の言葉を告げた。


「棘ー!なまえー!オマエらも昼練付き合え!」


校舎の窓から顔を出した真希に言われて腰を上げた。真希は最近特に、乙骨に対しての鍛錬に気合が入ってるように見える。今度開催される、京都にある高専の姉妹校との交流会に乙骨が参加することが決まったからだろう。真希に「はーい」と返事をして狗巻と一緒にグラウンドに向かった。


「みょうじさん、ちょっと聞きたいんだけど…呪力のこめ方に何かコツとかあるかな?」
「え、うーん、私武器は使わないからなぁ。そういうのはパンダに聞いた方がいいんじゃない?」
「パンダくんからはみょうじさんがそういうの上手いって聞いたんだけど…」


困ったな、となまえは思った。教えられるとしたらパンダかなまえかだったが、パンダは元々が呪骸だから呪力を生み出すというより、そのものが呪力みたいなものだろう。人間が呪力を捻出するとしたら、となまえに投げたのだろうと想像がついた。コツ、と言われると難しい。


「パンダー、そこにある岩、私に向かって投げてくれる?」
「え、コレか?」
「そうー」


なまえが指示したのは、両手を広げたくらいある大岩だ。長いことそこにあったようで、苔で覆われている。呪いのこめ方、口で言うより見せた方が早い。ズズっとパンダが持ち上げると「じゃあいくぞー」と空へ放り投げた。急に自分たちの方に投げられた岩を見上げ、乙骨は慌てる。が、その横で風が、吹いた。と思うようになまえが宙を舞っていたのだ。まずは右足の踵で岩の頂点に落とすと、いとも簡単に真っ二つに割れる。「すご…」と呟いたのも束の間、二つに割れた片割れを振り回した左足で蹴り上げ、もう片方も右の拳を突き上げた。なまえの呪力を帯びた打撃を受けた大岩は、地面に着く前に粉々になって粉塵が舞う。


「こんな感じー」
「ええぇ………」


肩にかかった粉を振り落としながら言うなまえに、乙骨は何がなんなのか全く分からなかった。いつものなまえの体術に呪力がプラスされたものを初めて見たのだ。


「呪力は負の感情から、って教えてもらったでしょ?」
「うん」
「私はそれを、まずは右踵に集めて、そのあと左足、右手に持っていく。自分の打撃に合わせて呪力を集めるの」


分かるような、分からないような。そんな風に聞いていたら、見ていたパンダが「あんな滑らかな呪力の移動はなまえにしか無理」と手を左右に振った。


「というより、私基本的に呪力の量が少ないから、効率良く無駄無く使わないといけないの」
「量が、少ない?」
「負の感情っていうのがあんまり湧かないんだよね」


なまえは幼い頃から気持ちを押し殺して我慢することが多かったからか、それは大きくなった今でも変わらない。その内そういう感情すら生まれ辛くなってしまった。人間だからこそ、全く無くなる訳ではないからその僅かな負の感情から呪力を捻出する。それを無駄無く使うための呪力の制御なのだ。
乙骨から見れば、確かになまえはそういう感情よりもいつも笑ってるイメージがある。怒ったり、悲しんだり、表情としては出すけれど、気持ちとしては抱かない。それはなんだか、凄く寂しいような気がした。


「乙骨くんはそもそも自分の呪力というより、里香の力をこめる訳だから、ちょっと私の手には余るよ」
「そっかぁ……」
「でも、パイプはあるって悟も言ってたし、物にこめる方が流れはイメージはしやすいんじゃないかな。感情を刀に受けてもらう感じで」
「…うん。なんとなく、分かった気がする」


ごめんね、あまり答えられなくて、と申し訳なさそうな顔をするなまえに慌ててお礼を言う。あとは、数を増やしてコツを掴むしかないか、と今度は真希に武具の立会いをお願いして今日も鍛錬に励むのだった。




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -