壮行


乙骨が高専に来て3ヶ月が経った。季節も夏に移り変わり、少し実習をするだけでも汗が滲む。あんなに軟弱だった乙骨も人並み以上には動けるようになって、やっと真希と武具でのやり合いが出来るところまで来たのだが。


「真希の動きは何度見てもヤバい。何、あの体幹。どういう体の作りしてんの…」
「まあ、動きに関しては俺らから見ればなまえも十分凄いが」
「いや、それはそれとして」
「でも憂太が真希から一本取るまでいつまでかかるかなぁ」
「おかか」


真希の身体能力の高さは、言葉通り人間離れしている。単に運動神経がいい、だけでは収まらない。そんな真希から一本取ろうとする乙骨は、いくら動けるようになったところで若干無謀にも思えた。
座ってるだけでもじりじりと暑さにやられそうになりながら、そんな真希と乙骨を五条も加えながら4人で見ている。


「真希、なんか楽しそう」
「すじこ」
「確かに、今まで武具同士の立ち会いってあんまなかっ…」


なかった、と言い終える前に何かお告げを受けたかのように急に大きい声でパンダが叫ぶものだから、なまえと狗巻は驚いて少し仰け反った。


「オマエ、巨乳派?微乳派?」


……。ねぇ、今それ聞く?ここに女子いるんですけどー?と声に出してしまったなまえのことも無視され、しかもスルーするのかと思えば乙骨も律儀に答える。なまえはなるべく隣の狗巻を見ないように冷静を装う。が、大きいのが好きとの乙骨の答えを真希に合図した後、パンダはなまえのところまで来て、なんとも言えない憐れみの表情を浮かべてぽん、と肩を叩いたところで冷静さが崩れる音がした。


「ん?ねぇパンダ、何この手。ねぇちょっとどういう意味ー?」
「何勘違いしてんだ、殺すぞ!!!」
「照れんなや!!小学生か!!なまえに関しては、何も言ってないじゃないか!!」
「目が!目が言ってた!ねぇ、脱いだら凄いかもしれないでしょ?!私の何を知ってんだ!」
「よーし、なまえ!パンダの奴殺すぞ!!」
「よっしゃー!」


女子2人を敵に回したパンダは、真希の武具となまえの体術の両方を相手にしなければならず、流石に足も手も出せず、気付けばあっという間に真希の足の下だ。


「はーい、集合」


気の抜けたような号令をしたのは五条だ。ちょうどなまえがパンダの側面に回し蹴りがヒット、しようとしたところだった。ギリギリで寸止めをしたけれど。
五条から仕事の依頼を受けたのは、狗巻だ。二級術師の狗巻は単独行動が許されている。なまえはそれが羨ましく、またこういうところでも狗巻を遠くに感じてしまう。と同時に、胸にはゆっくり安堵の気持ちが流れる。良かった、やはり釣り合うことなどなかったのだと。狗巻が遠くに感じれば感じるほど、なまえは自分を再認識することが出来る。


「狗巻くんー!乙骨くんー!」


振り返った2人に手を大きく上げて叫ぶ。


「気をつけてねー!」


"呪術師を助けたい"それが誰でどうであれ、なまえの信念は変わらない。どうか、無事に帰って来れるように、なまえはそんな不安を振り切るくらい、精一杯の声援を込めて2人を笑顔で見送った。




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -