転入


この日は朝から転校生の話題で持ち切りだ。パンダの話によると、同級生4人をロッカーに詰めた、らしい。


「こっわ…」
「殺したの?」
「ツナマヨ」
「いや、重症らしい」


呪術を扱う者として、その力の使い方を誤ってはいけない。その怖さを受け入れ、正しく扱ってこそ、呪術師の在り方だとなまえは思う。勿論悪質な呪術師もいる、しかしそれが同級生かもしれないというのは話が別だ。正直やり辛さは否めない。
白け切った教室を他所に、場違いなテンションで入ってきたのは五条だ。真希が「シカトしてやろ」という確固たる意志が顔に出ている隣で、入ってきた転校生に悍ましい程の悪寒を感じたのはなまえだけではなかった。気が付けば各々が戦闘態勢に入った状態で転校生、乙骨憂太を囲んでいた。

特級被呪者 乙骨憂太
特級過呪怨霊 祈本里香
間一髪で里香の呪いから結界で守られたなまえは、逃れられなかった3人を見て苦笑いを浮かべる。


「なまえ…俺達のことも守ってくれて良かったんじゃないか」
「おかか」
「うん。ね、ごめん」


自己紹介も適当に済み、なまえはパンダと狗巻と呪術実習に来ていた。と言っても呪霊の祓いはあっさりと済んでしまい手持ち無沙汰だ。


「で、どう思う?憂太のこと」


パンダの問いに、なまえも少し考えるように上を向く。乙骨のことを好きで好きで、里香に呪われてしまった乙骨憂太。同情と言うと薄っぺらいのだが、ただ、悪い人間ではないのだろうとなまえの直感が告げる。


「悪い人じゃないのは分かる」
「しゃけ」
「でも……、真希の肩を持つ訳じゃないけど、やっぱり甘くないよ、この世界は。"守られてる"ことに甘んじてるようじゃ、どの道乙骨くんに未来はないと思う」
「おお、…結構きついな」


それは結界師としてのなまえのプライドでもあった。守る守られるなど、言葉にすれば簡単なものだ。でもそれには覚悟が必要なのだ、守ることも、守られることも。


「まー、暫くは鍛えてあげないといけないかもね」


引率で一緒に来ていた補助監督が呼びに来たのはそうなまえが答えたすぐあとだった。真希たちが病院に運ばれたと聞き、高専には戻らず車で送ってもらう。
パンダと狗巻は乙骨のもとに、なまえは真希の病室へと足を運ぶ。そろりと病室のドアを開ければ、背を向けて横になってる真希の姿が目に入る。


「真希?大丈夫?」
「………ああ」
「え、なに、どうしたの。いじけてんの?」
「いじけてねぇよ!ガキみたいに言うんじゃねぇ」


じゃあどうしたの、と側にある椅子に座りながら聞くと、こっちを向いた真希の顔は物凄い不本意だ、という苦い表情をしている。


「あの転校生に助けられた。クソっ屈辱だ」
「そんなに嫌い?乙骨くんのこと」
「嫌いだね、ああいう奴見てるとイラつくんだよ」


真希は家柄のこともあるし、乗り越えて来たものの多さがある。だから乙骨みたいなのうのうと苦労もしないで生きてる奴の存在が許せなくなるのだろう。でも、果たしてそうだろうか。


「そこで乙骨くんに会ったよ。これから呪術高専で学んで、里香の解呪をするって言ってた。真希が言ったんでしょ、ここは呪いを学ぶところだって」


意識を失う前、真希が乙骨に言った言葉を思い出す。自信も他人も、祓って祓いまくることでついてくるのだと。呪術高専はそういうところなのだと。


「理由はどうであれ、乙骨くんが呪いを学びたいって、里香の解呪をしたいって言うんだったら、私はそれを手伝ってあげたい。だってせっかくのクラスメートなんだもん」


だから、真希も手伝ってよ。といつもの緊張感のない笑顔を向けられるといつも気が抜けるのだ。はあ、と溜息をついてなまえに向き合う。


「オマエ、お人好し過ぎんだよ。そのうち死ぬぞ」
「ひっど。……まぁ大丈夫だよ、私簡単に死なないもの」
「それ初日に悟も言ってたけど、なんだよ」


"神に愛されている"おそらく前に五条が言っていたことなのだろうが、生家のことに関してはなまえはいつも内緒、と言ってはぐらかす。いつか話せる時がくれば、と言うそのいつかを今はただ待っていようと思う。


「それより真希は早く治してね、明日から乙骨くんのしごきだよ、きっと」


正直呪術師をやっていると他人のことなど構わなくなるときがある。でもここに、自分より他人を優先してしまう同級生がいる限り真希もそれに付き合うしかないか、と一抹の諦めを覚えるのだった。






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