還幸


ガチャガチャと利き手ではない方で扉を開けようとするも、鍵がうまく刺さらずなまえは苛立っていた。
2017年4月、みょうじなまえは東京都立呪術高等専門学校に入学した。といっても急遽任務の同行に呼ばれ、入学は3日と遅れた。初めて訪れる寮の自室も、未だ足を踏み入れられず、冒頭に至る。

「あー、もう!」

目の前の扉に八つ当たりしようと振り上げた拳に無意識のうちに呪力が宿った、と気付いた時には時すでに遅し。勢いは止められず、強力な打撃を受けた扉は本来とは異なる動きをしながら、ゆっくりと向こう側へと倒れていった。
やっと入られるようになった部屋…しかしこれでは住めるどころではないし、扉のない部屋にプライバシーも何もあったもんじゃない。なまえはゆっくりと溜息を吐いて頭を抱えた。
その時ガチャ、と開いたのは隣の部屋の扉だった。

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今年の新入生は4人、しかし1人は入学前の1年生としては異例の任務同行で入学が遅れるというのは悟から既に聞いていた。
入学して3日目、1日の終わりを部屋で過ごしていた禪院真希が、空室だった隣に誰か入ったのだと知るのは昨日までなかった騒がしさを感じたからだった。部屋と言えど所詮都立高校の寮だ。部屋の声までは聞こえずとも、外で何が起こっているのかくらいの騒がしさは感じる。
ガチャガチャとただ開けるだけの扉に何を苦戦しているのかという煩わしさと、壁を隔てたこっちの部屋まで伝わる一寸の苛立ちに小さく溜息を吐いた時だった。
一瞬の静けさの瞬間、何か重い物が落ちたようなけたたましい音が響いた。若干部屋が揺れた気さえした。流石に何が起きたのかと、自室のドアを開け、隣を覗く。
ドア越しに覗き込めば、部屋の前に少女が一人項垂れている姿が目に入った。が、すぐ頭を上げてこちらを向けたその瞳と合う。
立ち姿から、とても呪術関係者とは思えないほど背も低く、華奢で色も白い。本当に呪術師かと思うほどだった。右腕は首から吊っており、左目も包帯で巻かれている。扉の鍵に苦戦していたのはこういうことか、と理解するのに時間はかからなかった。

「…あのー、高専の生徒の方ですか?」

へらっと笑うと余計幼さが残るその顔と、緊張感のない声に、真希は再び小さく溜息を吐いた。




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