狂人


「………あっ、なんか、ごめんなさい。分かったようなこと言っちゃって…」
「…おかか」


よくよく考えると、初対面の知らない女にいきなりそんなこと言われても困るよな、となまえは一瞬で冷静になる。ちょうど会話も途切れた頃、ガラッと開いた扉から入ってきたのは五条悟だ。


「ハーイ、みんなおはよう〜。あ、なまえも今日からだね、どう?怪我したって聞いたけど」
「あ、まあはい。大丈夫です」
「巻き込まれた子どもを庇ったって?いやぁ関心関心」


そう手を叩く五条になまえは少しムッとした表情を見せた。おそらく五条の言葉の意味的に、良い意味として発してる訳ではないことが分かったからだ。


「……あの時庇わなければあの子は死んでた」
「でも自分が死ぬことは考えない?自分は大丈夫だと思ったからとっさに庇った?なまえは自分は神様に愛されてるから大丈夫だ、って思ってるよね」
「それは………」


"神に愛されてる"その言葉の意味を知らない真希達は疑問を浮かべながらも、とても会話を挟める感じではなかった。
その意を知るにはなまえは正家のことを話さなければならない。そのことを内緒にしとけと言ってきたのは五条なのに。そんなことを思いながらも、多分何も考えてないのだろうな、と目の前の五条を見る。


「なまえの術式は現場では重宝されるよ。なかなか守りに徹せられる術師もいないからね、でもそれで自分が怪我したりしたら元の子もないよ。この先なまえが任務に行けない間、誰かが死ぬかもしれない」


例えば、みんなとかね。と半ば冗談とは思えない口調で五条は真希達を見た。助けられる命を助けられなくなるかもしれない、その怖さはなまえが一番良く分かっていた。今日会ったばかりの同級生だが、そんな目に合ったとしたらと考えるだけでも、考えたくないくらい、嫌だった。


「…おい悟。何もそこまで、」
「いいよ、真希。言う通りだから」


その上、下手な反転術式を行ったせいで、任務に復帰できる期間を余計長くしてしまったのだ。それは完全になまえの失態だった。大人しく硝子の治療を受けていたらすぐにでも行けたのに。それならば、となまえは真希に向き合う。


「真希、ちょっと呪具貸して」


返事を聞く前になまえは真希の傍に立ててる武具のジッパーを開け、取り出した。なまえの身長に合わないその大刀の柄を短く持ち、刃の棟を吊ってる右腕に向かって思い切り振り下ろした。
一瞬真希の止めるような声の制止も振り切った直後、ゴキッと鈍い音が教室に響いた。


「…っ〜〜〜ったぁぁ」


なまえは反転術式に失敗した腕を再び折ったのだ。一歩間違えれば切断にもなり兼ねなかったかもしれない。しかし、それを当の本人はそれを満足気に見下ろす。周りの同級生が若干引いてることすら、気付きなどしていなかった。


「…うん、今度は綺麗に折れた。これで硝子さんに治してもらえる。じゃ、ちょっと医務室、行ってきます」


そう言い残し、なまえは教室を出て行った。呆気に取られる同級生を横目に、五条はクックッと喉を鳴らして笑った。


「ね、なまえもちゃんとイカレてるでしょ」


もしや、さっきまでのはただの焚き付けだったのか、それを知ろうとする理由はないが、なまえへのイカレっぷりも去ることながら、五条悟という人間の信用というのも真希達の中で改めて考えるのであった。




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