茶道部で食べている和菓子は私のバイト先で注文している。たまに個人的にと十先生が買いにくることもあって、学校で会う前からちょっとした顔馴染みだ。人間的な礼儀や作法、和菓子に関する云われなどその知識は豊富で、話を聞いているだけでとても楽しい。
そんな十先生だけれど、今日の和菓子の発注をし忘れたらしい、というなんとも十先生らしくない失敗。学校終わりでバイトしていた時に連絡が入り、そのまま和菓子をお届けという珍しく宅配サービスだ。普段そんなサービスはないのだけど、今回は特別。
「…失礼します」
「あ、棗ちゃん!」
引き戸を開けてすぐ畳の匂いが鼻につく。何人か茶道部の生徒たちが居て、お茶を点てる音も心地がいい。数えるほどしか来てないけど、この雰囲気は好きなのだ。
「はい、これ」
「ありがとうございます。すみません、バイトなのに…」
「ううん、平気」
これもバイトのうちだ。ちょうど休憩も一緒に貰っちゃったからあと30分ほどで戻らなくちゃいけないんだけど。少しだけ時間があるから、茶室の隅で小さく体育館座りして眺める。
和菓子を受け取った悠太はテキパキと準備を始める。背中を丸めることなく、姿勢良く。剣道部だった時の胴着を着ていた時も思ったけど、和の格好が似合うなぁ、と。そんなこと思っていたら目の前に影があって、上を向くと十先生。さっきまで生徒に教えてたところだったけど、わざわざ来てくれたのか。
「十先生、こんにちは」
「あ、はい。こんにちは………今日はすみません。本当にありがとうございます」
「いいえ、大丈夫です。……珍しいですね、十先生が」
「いや、お恥ずかしいです」
少し照れたような顔をした十先生もまた珍しくて、ちょっとだけ面白い。頭をかく仕草をしてる十先生も、生徒に呼ばれてすぐ戻っていった。入れ替わりに傍に来たのは悠太だ。
「はい、これ。食べていっていいよ」
「え、いいよ。みんなのなのに」
「余分にいつも頼んでるから。はい、お茶も」
持っていてくれたさっきの和菓子と抹茶。悠太が点ててくれたの、と聞くとそうだよと答えてくれた。一口和菓子を口に運んで抹茶を頂く。
「どう?」
「………苦い」
眉を潜める私を見てくすくす笑う悠太。少し苦くした、と笑う姿の悠太は悪戯っ子そのものだ。そうだよね、前に飲ませてもらった時はこんなに苦くなかったと思う。本当はこういうのもちゃんと向かい合って、礼とかしながらやらなきゃいけないものだと思うんだけど、私はよく知らない。でも、なんだっけ、こういう時、なんか言うんだったような。そう、たしか。
「…………結構なお点前で」
「そう、良かった。それは嫌味も込めて?」
「苦味も込めて、」
まだ舌に残る渋さを和らげるように和菓子をまた口に運んだ。
広がる苦味を消すように
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